第14話 急を要する

 果たして、今日はどんな獲物が釣れるだろうか?


 そんな想像をしながら、深夜を迎えるまで自宅で適当に時間をつぶしていると、携帯端末が騒がしく振動し始めた。

 ブルブルと揺れる端末の画面には「一条」という文字が表示されており、電話での着信を報せていた。


 この様子だと、今日も一条は元気にKトンネルにでも向かうつもりなのだろう。そう思うと彼女の根性というか、女の執着がいかに恐ろしいのかというのかを実感して気分になった。


 そうして、俺は電話に出てみると聞こえてきたのは男の声だった。


「もしもし」

「え、はい、もしもし」


 ずいぶんと暗く低い声に困惑していると、電話越しでは軽い溜息が聞こえてきた。


「あの、こんな夜更けに失礼を承知でお尋ねしますが、山藤さんで間違いありませんか?」

「は、はい山藤ですけど・・・・・・あの、あなたは?」


「私は一条まろんの父親です」

「い、一条の親御さんがこんな夜更けに電話って、何事ですか?」


「単刀直入に言いますが娘が行方不明になりまして」

「一条が行方不明?」


「はい、娘の携帯を見ると最後に連絡を取っていたのがあなたでしたので、何か知らないかと思って連絡させていただきました」

「・・・・・・」


「山藤さん?聞こえていますか山藤?」

「あ、あぁはいはい、聞こえています」


「娘の行方、知りませんか?」

「と、言われましても」


「何でも構いません、心当たりでもあれば聞かせていただきたいのです」

「でしたら、S山にあるKトンネルかと思いますが」


「どうしてそう思われるのですか?」

「一条がその場所に強い執着を示しているのを聞きましたので」

「そうですか・・・・・・」


 そうして、一条の父親はあきれた様子でため息を吐くと、再び俺に話しかけてきた。


「私は今Kトンネルにいますが、娘の姿は見当たりません、他に心当たりは?」


 まるで取り調べでも植えているかのような圧迫感を感じながら、一条が他に行きそうな場所はあまり思いつかなかった。


「いえ、もう思いつくところはありませんが・・・・・・」

「何か心当たりでも」


「いや、今日の昼に一条と喫茶店で会ってたんです。だから、その後からいなくなったのかなって」

「あの子は君と会った時、どんな様子でした?」


「家にいる事にうんざりしていると・・・・・・」

「なるほど、ほかには」


「妙な人の姿を見るようになったと」

「妙な人とは一体誰の事ですか?」


「その前に、一条の友人が失踪になったという事について知っておられますか?」

「えぇ、娘と仲良くしていた子です、詳しくは知らないが事件の事も耳にはしています」


「一条は友人である彼女の事を強く追い求めるあまり、彼女と同じ道を歩もうとしていました。その結果、彼女は女性の姿を空見したんだと思います」

「女性?一体どういうことですか?」


「一条は失踪した友人が持っている心霊写真にそっくりの女性を見たそうです。おそらくその人の事を追っているのかと思います」

「よくわかりませんが、つまり、娘はその女性を追っていると?」


「おそらく・・・・・・ですがトンネルにいないとなるとこれ以上、見当はつきません」

「なるほど」


「すみません、これ上の事は分かりません」

「ありがとう、ではこれで」


「待ってくださいっ」

「まだ何かありますか?」


「トンネル付近の不審な車、あるいはS山にある精神病棟方面に行っているかもしれません」

「精神病棟?この辺りにそんなものがあるのですか?」


「はい、看板もない地味な一本道を進まないとたどり着けません、もし見つけることができればそこも捜索してみるといいかもしれません」

「ありがとう、協力に感謝します」


 そうして、電話は切れた。そして俺はすぐさま釣り道具一式を背負い、家を飛び出してS山へと向かうことにした。

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