第12話 狂気の誘い
「いきなり何、水滴?」
「昔、ある所に蛇口のしまりが緩いボロアパートに住んでいた男がいてな。そいつは毎日蛇口から水滴がポタポタと落ちる音を聞いて過ごしていたんだ」
「え、昔話?」
「男は耳障りに感じていたが、次第にその音が当たり前のようになり、男は何も気にすることなく生活していた。
だが、ある日男はその家から引っ越すことになり、新居に引っ越ししたのだが、男はそこで水滴の落ちる音が聞こえる事に気づいたんだ。
また、蛇口の緩い家を引いたのかと、水場を確認してみたが水滴が落ちている所などなかった。
もしや、隣の家や屋外から聞こえているのかと思い、男は隅から隅まで探したが、見つけることはできなかった。
その後、男は周囲の人間に水滴の話をしたが、誰もその音を認識できた人間はおらず、男はその後も水滴の音に悩まされたという・・・・・・」
「ねぇ山藤君、いったい何の話なの?」
「・・・・・・呪いの話だ」
「え、呪い?」
「あぁ、一条は今呪いをかけられようとしている」
「私に?いつ、どこで?」
「一条、お前はさっき女の人を良く見るって言ってたよな」
「え、うん」
「それは、あの心霊写真のトンネルにたたずむ女とそっくりだったんだろ?」
「多分、そうだと思う」
「それこそが一条に呪いをかけようとしている証拠につながるかもしれない」
「ただ人が通り過ぎるだけだよ、どうしてそんなのが呪いになるの?」
「だが、一条はその女の人を見て何かを感じたんだろう」
「うん、何か意味があることかもしれないって、私の知りたいことがわかるかもしれないって」
「これは運命、神のお告げか何かだと思ってしまったと?」
俺の問いに一条は何も言わずにケーキに手を伸ばし、小さく切ったかけらを口に入れた。
「だってあんなの見ちゃったら誰だって運命感じちゃうでしょ・・・・・・」
「それがまずいって言ってるんだ、世の中は思いのほかうまくできている。偶然を装う事なんて当たり前だ、一条が見たっていう女の姿も誰かの手によって仕向けられたものだ」
「でも、私にはとても魅力的に見えた、その先に私の欲しいものがあるような気がしたの・・・・・・」
「その先は失踪した友達と同じ道かもしれないぞ?」
「それならそれで好都合、だってその道の先に大切な友達がいるんだから」
「そうか、なら、もうすぐ一条は幽霊を空見するだろうな」
「な、なんでそんなことがわかるの?」
「勿論推測だ、そして、それを見た時一条が今の一条でいられるかはわからない」
「じゃあ山藤君は私にこれ以上首を突っ込むなって言いたいの?」
「大切なクラスメートを失いたくないからな。それにもしも一条がいなくなったとなれば事情聴取を受けるのは俺になるだろうからな、面倒は嫌だ」
「そ、そんな事が理由?」
「あぁそうだ、悪い奴らの思い通りになる世界なんて、俺は許せない」
「・・・・・・ねぇ山藤君」
「なんだ?」
「私、やっぱりおかしくなってるのかな」
一条はうつむきがちにそんな事を言った。その様子はまるで何かにおびえている様であり、彼女の手先はわずかに震えているように見えた。
自覚があるだけまし、だが、さっきまでの様子はまるで何かにとりつかれているかのような人格だった。
あと一歩、あと数日でも一条と出会うのが遅れていたとすれば彼女は今頃Kトンネルで友達同様に行方不明になっていたとしてもおかしくはなかっただろう。
・・・・・・いや、現在進行形で彼女は危険にさらされているといってもおかしくはない、それこそ彼女の精神状態の事を思うとなおさら安心できるレベルではない。
これは現実的な問題であり、あのKトンネルは間違いなく人間の狂気が強く渦巻く、まさしく異空間になろうとしている。
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