第11話 心霊は伝染するのがセオリー

 一条との夜釣り兼ねた二度目の肝試しは、心霊写真の当人と出会うという衝撃的な展開で終わった。


 その出会い、そして出会った女性が本当に心霊写真の人であるか否かは謎のままだった。そして、あの日の別れ際に見た一条の横顔は、どこかうつろなものであり、その様子はどこか不穏な空気をまとっていた。


 そんな、一条との夜釣りをして三日が過ぎた頃、俺の携帯に一件のメッセージが送られてきた。それは一条からであり、内容は「喫茶店で話そう」とのことだった。


 同じクラスの女子と喫茶店でお話、それはまるでよくある青春の一場面のようであり、内心ウキウキワクワクとしたのだが、一条という女子高生が果たしてそんな平凡な事を俺に仕掛けてくるのかというと、それは怪しい所でもある。


 ・・・・・・まぁ、おそらく心霊関連の話でもしたいんだろう。


 そんなことを思いながら、以前一条に教えてもらった喫茶店へと向かうと、店内にはまだ一条の姿はなかった。


 俺はひとまず軽食とドリンクを頼んで適当に待っていると、ふと、死角から颯爽と現れる人の姿が目に入った。

 それは、制服姿の一条であり、彼女は不満げな面持ちで俺の正面にドカッと座ってきた。


 果たしてどうしてそんなに怒っているのだろうか?まるで想像も何もつかないが、彼女の開口一番が気になるところではあった。


「おなかすいたっ」


 思いのほか人間味あふれる発言に、俺はすかさずメニューを手渡すと、彼女は強い語気で「ありがとう」と言った。

 鋭い目つきでメニューをにらみつけること数分、ようやく決まったのか、一条は「ロイヤルミルクティー」と「イチゴのショートケーキ」を頼んだ。


 女の子らしい、という表現が正しいのかはわからないが、どこかイメージ通りの注文に納得していると、一条は俺の事をじっと見つめてきていた。


「久しぶりだね山藤君」

「いや、三日ぶりだけど」


「私たち三日も会ってなかったんだよ、これが久しぶりじゃなくて何?」

「あのさ、家族でもないのに三日会わないくらい普通じゃないか?」

「・・・・・・私はすごく大変だったのっ」


 唐突な話題変更、そして、一条の様子からして話の本題はその「大変だった」という内容の事らしい。


「何が大変だったんだ?幽霊でも見たか?」

「・・・・・・」


「え、見たのか?」

「その話はあと、まずはこの三日間の話」

「あ、あぁ」


 気になる反応を見せる一条だったが、見たところ元気そうなので、そこまで心配する必要はないように思えた。


「この三日間、私は家で軟禁状態だったの」

「それは、何があったんだ?」


「夜中に家を抜け出してるのが父さんにばれたの」

「あぁ、あのインテリヤクザ」


「え、なんて?」

「いやいやいや、何でもないなんでもない」

「・・・・・・そう」


 やばいやばいうっかり口が滑った、マジでこの夏一番にゾッとした。下手な軽口は心の中でも絶対にやっちゃダメだなこりゃ。


「それでね聞いてよ山藤君、父さんったら私の携帯を没収して、おまけに家政婦さんを監視につけてまで私を家に軟禁したの」

「そりゃ大変だったな、でも、親からすれば深夜に家を抜け出す娘は心配で仕方ないんだろ」


「じゃあ、山藤君が親になってら子どもを三日も軟禁するのっ!?」

「・・・・・・いや」


「いやって何、ちゃんと答えて」

「ま、まぁ、俺なら一緒に心霊スポットにでも何でも行くけどな」

「・・・・・・素敵」


 一条は、まるで舞台女優の様な大げさなリアクションでそんな事を言った。うさん臭く聞こえるが、彼女の瞳は真剣に俺を見つめており、


「いや素敵じゃないだろ、どんなオカルト一家だっ」

「それでも、どこにも行かないよりかはましだよ、父さんと出かけた事なんて物心つく前のものばかりだし、それ以降はほとんど一緒にどこかに行く事もない」


「親も忙しいんだろ、それに遊びなら同年代で行く方が楽しくないか?」

「それはそうかもだけど・・・・・・」


 まるで、すねた子どもの様子を見せる一条の元に注文していた品が到着した。すると、一条は子どもの様に笑顔になると、イチゴのショートケーキのフィルムを難なくはがした。


「ねぇ、ところで山藤君、今日は暇だったりする?」

「まぁ、忙しくはないけど」

「じゃあさ、今日もKトンネルに行こ」


 一条はウキウキでケーキを口にほおばりながらそんな事を言った。


「なぁ一条、もうあそこに行くのはやめとけ、いつどうなるかもわからない」

「うわ、山藤君までそんな事を言うの?」


「そりゃそうだろ、あそこはすでに心霊スポットの域を超えてる、そんじょそこらの怪談噺のネタじゃなく、実害が出る事件現場なんだ」

「そんなことわかってるよ、わかってるけど気になるじゃん・・・・・・それに、呼ばれてる気がする」

「はぁ?」


 聞き捨てならない言葉を聞いた。だが、一条はそれをはぐらかすかのように視線をそらし、紅茶を口に含んだ。


「一条、わるいじょうだんはよしてくれ」

「冗談じゃないし実際に呼ばれてるの」


「そういうのは神社とか寺とか、パワースポット系だけにしといたほうがいい」

「でも、あの人が呼んでる気がするの」


「あの人?」

「そう、Kトンネルで出会ったあの女の人」


「なんでその人が呼んでるってわかるんだよ」

「家に、あの人が来てたの」


「来てたってなんだよ」

「夜になるとね、その人が必ずうちの前を通っていくの、これはきっと運命なんだよ、あの人についていけば何かがわかる気がするの」

「・・・・・・ちっ」


 思わず舌打ちをすると、一条は驚いた様子で俺を見つめてきた。


「あ、悪い、つい癖でな」

「山藤君、やめた方がいいよそのくせ、今ちょっと怖かった」

「いや、本当に悪気はなかったんだ」


 悪気はないし一条に向けたものでもない、ただ、その話を聞いた以上もう彼女を放っておくわけにはいかないだろう。


「なぁ一条、水滴の話を知ってるか?」

「・・・・・・え?」

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