第8話 夜釣りは言い訳
一条の腑抜け面をまじまじと見つめていると、彼女は恥ずかしそうに顔を背けた。
「ご、ごめんなさい、私、今絶対変な顔をしてた」
「あぁ、いや、それほどでも」
「ところで山藤君、夜釣りってどういうこと?」
「ほら、夜釣りしてると不審な光が目立つことがあるからさ、それで結構色々見るんだよ」
「・・・・・・そういえば昨日も釣り竿持ってた」
「あぁ」
「本当に夜釣りしてるの?」
「あぁ、近くに良い池がある、よく行くんだ」
一条は疑いの目で俺を見つめてきていたが、その目は突然見開かれた。それはまるで何かを思いついたかのようなものであり、瞬時に嫌な予感がした。
「山藤君っ!!」
一条は大きな声を上げながら身を乗り出してきた。
「お、おい、大きな声を出すな一条」
「ねぇ、お願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「私も夜釣り、連れてって」
「あっ・・・・・・」
俺は、言ってはいけないことをいてしまったと後悔した。いや、一条の行動力を見誤ってしまった俺が悪い。
しかし、昨日今日会った相手の事なんてわかるわけがない、これは完全に俺の運が悪いとしか言いようがない。
「私、夜釣りにとても興味があるのっ」
「だ、駄目だっ」
「どうして?」
「一条お前、夜釣りに乗じてまたあのトンネルに行こうとしてるんだろ?」
「ううん、私は山藤君との夜釣りに興味があるのっ」
途端にキラキラ輝く瞳と、あざとい笑顔を見せる一条だったが、そのゆがんだ口元を見れば彼女の思惑が透けている事がすぐに分かった。
「お前を危険にさらすことはできない」
「そんなの、山藤君と一緒なら大丈夫でしょ、だってよく夜釣りしてるんだよねぇ?」
「それとこれとは話が違う」
完全に俺を丸め込もうとしている一条は、おもむろに制服のポケットから携帯端末を取り出すと、何かを確認し始めた。そして、満面の笑みを見せてきた。
「明日は晴天なり、夜空に煌めく夏の星座が釣果をもたらすであろう・・・・・・あ、実は天体観測も好きなんだよね」
「おいっ、今思いついただろ」
「まさか、昨日今日あったばかりの人の趣味を疑うなんてよくないよ、山藤君」
完全に話の流れを持っていかれている俺は、それでも断るべきだとは思いながらも、彼女の陽気な態度に魅了されていた。
何より、ここで断ったところで彼女の気がおさまる気はなさそうだし、それで大切なクラスメートを失うことになるってのも後味が悪いってものだ。
すべては一条に出会い、心霊スポット巡りをしてしまったが故の物語。
付き合うなら最後まで、それに、目撃者は二人いた方が信頼度も増すってものだろう。
そうして、俺はと一条は明日の夜に「夜釣り」という名目で再びS山にあるKトンネルへと行くことを約束した。
しかも、一条の提案で連絡先を交換することになり、俺の携帯端末には高校背になって初めての同級生の連絡先が追加されることになった。
・・・・・・悪くない、クラスで一番の美人と連絡先を交換できるなんて、夢の青春イベントそのものだ。
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