第7話 沈黙と雨
一条は思わずドキッとするような大声を上げると、喫茶店内は異様に静まり返った。そして、窓辺から聞こえてくる雨音がより鮮明に聞こえてきた。
その間も、俺は一条によって諸悪の根源とされる心霊写真を無理やり見せつけられている。
誰か助けてくれ、そう思って辺りを見渡してみるも、めぼしい客もいなければ喫茶店のマスターも静かに何かに夢中になっている様子。
どうしてこんなことになったのか、そして、俺はこれからこの心霊写真をきっかけとする女子高生失踪騒動に付き合わなければならないのか。
そんな、数多の妄想に疲れ果てた頃、俺はひとまず一条に返事を返すことにした。
「わ、わかったから落ち着いてくれ一条」
一条はゆっくりと写真を机に置きなおすと、ココアの入ったカップを手に取り、それに口をつけた。
そんな彼女の様子に、俺もオレンジジュースの入ったコップを手にして、乾いた喉を潤した。
そうして、しばらくの間一条との間に沈黙が流れた後、彼女は再び口を開いた。
「ごめんね一条君、取り乱しちゃった」
「友人が失踪したんだ、俺も一条の立場ならそうなってる」
「うん、ありがとう」
「いいんだ、つまり、一条はその写真にまつわる話が聞きたいって事なんだな」
「そう、このトンネルは昨日行ったKトンネルで間違いない、だからあの辺に詳しそうな山藤君なら何か知ってると思って」
「なるほどな」
事情が事情なだけに、一条にならある程度の事を教えても良いのかもしれない。ただ、それによって一条の行動原理になってしまうのであれば、困るのはこっちだ。
色々と悩ましいが、それとなく小出しで教えて、適当に納得してもらうしかないだろう。
「わかった、俺が知り得る限りの事は言う」
「本当っ?」
一条は嬉しそうに高い声を出して、わずかにほほ笑んだ。
「まず第一に、あの場所ではいくつかの事件がおきている。それは昨日の様に精神疾患を持った人間による被害だ。車にでも乗っていない限り、生身であそこに近づこうとするやつは少ない」
「う、うん、それは昨日で十分わかった」
「次に、あの場所では特定の人物が張り込み、何かを監視している様子が見られる」
「え、監視?」
「監視だけじゃない、不審な動きが多く、特に女性をトンネル内に徘徊させたりしている」
「そ、それって」
「それこそが一条が知りたいことの一つなのかもしれないな」
「じゃあこの写真って」
「おそらく、その不審な行動をしている奴らのうちの一人を映したものだろうな」
「どうしてその人たちはそんな事をしているの?」
「・・・・・・どうしてだと思う?」
「わ、わからない」
一条は緊張の面持ちで俺をじっと見つめてきていた。
・・・・・・悪くない、怖い話をしていれば美少女に見つめてもらえるのなら、将来は怪談噺の語り部になるってのも悪くはないのかもしれないな。
「ね、ねぇ山藤君、話の続きは?」
「えっ、あぁ、続きね」
「うん」
「不審な動きをする奴らはトンネルだけではなく、近くにある精神病棟に頻繁に通っている所もわかっている。トンネルと精神病棟、この二つは彼らにとって重要な何からしい」
「じゃあ、もしかして昨日の事もその人達が関わっていたって事?」
「それを証明するものはない、何せあのトンネルで事件を起こした奴らは皆「女の霊を見た」の一点張りらしいからな」
「・・・・・・何それ、ちょっと待って山藤君、私頭が混乱してきた」
「少し休憩するか」
「う、うん」
そうして、再び訪れた沈黙の仲、喫茶店の窓から見える雨模様はわずかに激しさを増しているように見えた。
時折窓に打ち付けられる雨は、コツコツと音を鳴らしており、その音はどこか耳心地がよかった。
そうして、しばらくの休憩の後、一条はどこか落ち着いた様子で話しかけてきた。
「山藤君、他に何か知ってることはある?」
「あのトンネルには、興味本位で訪れる心霊マニアは少なくない。だが、実害が出始めてからは減った」
「実害っていうのは精神病棟関連の?」
「そうだ、結局の所人間が一番怖いって事だ」
「じゃあ、彼女は・・・・・・」
「一条のいう失踪したっていう子は、幽霊の事を話していたんだよな」
「うん、携帯で連絡を取ることが多かったんだけど、最後の連絡を取る直前まで彼女はトンネルの女性の幽霊についての話をしていた」
「そうか」
「ねぇ、山藤君」
「なんだ?」
「山藤君はその情報をどうやって手に入れたの?」
「どうって」
「私は、いろんな人づてを頼って情報を集めたけど、山藤君が言っていた情報は今日初めて聞いたものだった。どうやってその情報を手に入れたのっ!?」
「・・・・・・それは、俺の趣味が夜釣りだから」
俺の言葉に一条は無防備で気の抜けた表情をすると、かすかに「え?」とつぶやいた。
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