詞魂譚─忘れじの物語─

夢鮫こざめ

序章 古ノ口伝

序章


 まだ天地の境もなく、光も闇も分たれぬ頃――

 ただひとつ、声があった。


 声はことばとなり、詞は詞魂ことだまとなる。

 詞魂は幾千に分かれ、各地に散らばり、数多なる命を創り、ひと時も止まることのない時を流した。やがて、それらはその地を創造し、世界を織り上げた。いわば詞魂は世界のパーツであり、物語の一部一ページであった。


 しかし、詞魂は時間の経過によって脆くなり、その土地の記憶が消えてしまう。そのため詞魂は、久遠の詞継ことつぎによって受け継がれ、それを書き記す筆録司ひつろくしによって書物となり、また各地に記憶を蘇らせるのだ。


 百千万の詞魂の中でも、世界の柱を負う詞魂がある。

 かの十二の詞魂の力は強力で、筆録司による書物も残っていないと云う。それを知った者は、すべての始まりと終わりを知るだろう。


 ――この物語は、一人の詞継と、筆録司が、失われた詞魂を再び呼び起こす物語である。彼らはこの旅で、何を知り、何を伝え、どこへ行くのだろうか。

 それは、詞継である私も知るすべはなかった――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る