第1章

 5時50分、私はサミットに叩き起こされる。頭にくる。なんとも目覚めの悪い朝である。ニュースもしばらく見ていないのでよく知らないが、もう梅雨入りしたのだろうか。思い返すと、ここ一週間くらいは雨の日が多かったような気もする。梅雨っていつもピンとこない。どこからが梅雨で、どこからが夏なのか。そんなことを漠然と考えていると、徐々に夢の世界から解放された。それは、もう二度と思い出すことのないような、輪郭のない夢だった。でもたしかに、夢がそのとき私の身体を離した。

 ――ああ、朝が来たんだ。


 朝の準備に思考も感情も要らない。持ち込むべきではない。そんなことはわかっている。それなのにまた、考えてしまう。考えるという行為は、傷口を舐める癖に似ている。癒えないとわかっていても、触れずにはいられない。じくじくと滲むものを、確かめるように。何かがまだ残っているかのように。


 朝の音が遠くでしていた。フライパンの油が跳ねる音が、耳の奥にじんわりと届く。我が家の朝食に目玉焼きは欠かせない。昔はケチャップ、ウスターソースを経て、今は塩。移ろいやすい私の心だけど、このごろ別人みたい。囚われている。母さんの目玉焼きはあの頃も、今日も昨日も明後日も、多分ずっと変わらないのに。


 母さんは私がいつ起きだしても小綺麗にしている。所謂オフィスカジュアルスタイルに、自然且つはっきりとした化粧。私と違ってちゃんとしている人。母さんには髪の毛を乾かし忘れて寝てしまうことなどない。感情に支配されたりしない。本当に私は母さんの子なのだろうか、なんて考えてしまうことさえある。ケチャップの頃から、時々。似ているところは歯並びくらいのものだ。でも重大な点である。これのお陰で、私は彼女を母さんと呼ぶ。


 食卓には、パンが一枚に目玉焼きが一つ、乗っかっている。今日は母さん、一緒に食べないみたい。

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