第2章

 風に揺れる木の葉がケタケタと笑う。その耳障りな甲高い声に圧倒される。自分のことは自分にしかわからない。誰にとってもそれは同じ。あの木のことだって、私にはわからない。すれ違う人の目に私は映らないのに、私は一人ひとりの顔をまじまじと見つめる。やはり、目は合わない。


 駅までは歩いて15分ほどかかる。歩き慣れたこの道に新しい発見など在るはずもなく、ただ暇である。お気に入りのワイヤレスイヤフォンのケースを開けて、片耳ずつはめる。


 プレイリストを開く。シャッフル。何が流れてきてもかまわない。どれも過去の私が選んだものだ。聴きたい気分で選んだはずの曲は、今となってはどれも、遠い。一ヶ月前の私は、本当に私だろうか。


 1曲目、イントロ。レゲエ調の明るいメロディー。

その音をきっかけに、胸の奥で何かがひとつ、沈んだ。弾んでいるのに重たい。理由はない。ただ、そういうふうに感じてしまう曲だった。


 いつの頃からか、音楽は思い出を再生する道具になった。誰と何を話したか、どんな空気だったか、何を言えなかったか。旋律の裏側から、そういうものばかりが滲み出してくる。今日みたいな朝には、本当は音楽なんて聴かないほうがいいのかもしれない。私の中にいる私が、そう言った。でも、無音の世界にひとりでいる勇気もない。音を上げる。周囲が遠のく。ノイズキャンセリングが働いて、鳥の声も、車の音も、何かを喋る誰かの声も、すべてが透明な膜の向こうに消えていく。見えているのに、触れられない。聞こえているのに、届かない。


 去年閉店したはずの老舗のうどん屋は、別に二年前と何ら変わらない姿でそこに在る。と、いうより閉店するまで開いていたのが信じられないくらい。今にもおばけが飛び出してきそうである。私がまだこの町に来て間もない頃、このうどん屋のせいで早くも両親に引っ越しをせがんだのも、今となってはいい思い出。


 そのうどん屋を曲がってすぐ、ここが駅。

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