Still.

多胡しい乃

プロローグ

 ざあ、ざあ、ざあ――。

壁掛け時計が首を傾げながら、私の眉間をじっと見つめる。あまりに無垢な針が憎い。

 それはもう動かない。私が殺した。私が針を左手で押さえて、右手で折った。

 死んだそれを横目に、地球は律儀にまわりつづける。絶えず流れる時間の中に独り、私だけが海岸に打ち捨てられた貝殻のようだった。ざあ、ざあ――。

 音を止めたのに、潮の騒ぎ。むしろもっと煩い。


 自然の摂理が、肌の内側できしんでいる。呼吸をするたび、身体の輪郭がゆるく崩れ、やがて水になる。ぬるくて透明で、誰にもすくわれないまま床に広がり、最後には蒸気になって空気と溶けあう。

 それで終わるわけじゃない。私は消えない。ただ、人の目から見えなくなるだけ。そのほうが楽でしょう。

 けれど今の私を止めるなにかが肺のあたりにうごめく。私の代わりに、私をなぞって生きているものがいる。

 まぶたの裏側から見てくる。

 骨と骨のあいだで笑ったり、泣いたり。

 私じゃない何かが、私を演じている。

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