14終業式
一学期の終業式のあとホームルームでは、夏休みの過ごし方として境先生の言葉が述べられた。貯水池のことにも少し触れ二学期にまた元気な顔を見せて欲しいと締めくくられた。そのあとナオトは境先生と今後の部活動についての話し合いの場が設けられていたので、視聴覚室準備室へと向かう。キョウコとは書道部の方へ顔を出すので別行動だった。
ナオトが先に視聴覚室準備室に入って待っていると、しばらくして先生が到着した。向き合って腰を下ろしていると、部が作られた当初先生と二人だけで過ごす時間が多かったことをナオトは思い出していた。
「こうしているとナオトと初めて会った時を思い出すわね」
境先生も同じようなことを考えていたようだ。四年生の一学期にどのクラブにも所属しない生徒がいると聞いた境先生から声をかけてきたのがきっかけだった。やりたいことは無いのかと問う先生に、無愛想な態度をとってしまうナオトの表情に驚いたと言う。
「最初は先生、君のことが少し怖かったのよ」
境先生はそう言って天井を仰ぐような仕草を見せた。日に日に成長する生徒を毎日目にする先生には、少しだけ変わり者の生徒を、贔屓して見てしまうことに自身を戒めることもあったが、触れ合ううちにそれ以上のことを返してくれるナオトのファンでもあった。
ナオトも先生との出会いを思い出していたが、大人と子供とでは時間の流れが異なることは子供のナオトには分からなかった。
それから夏休みの部活動についての話になった。文化系でその発表の場すらない未確認動物探索部は、独自の研究をまとめて一冊の本にすることが境先生の提案により目標に定められていた。
「お盆休み以外は先生学校にいるから登校日以外でも顔を見せてちょうだい。その時に部活動の進捗も報告すること」
境先生はそう言うとすこし間をあけてから
「それとリーダーとして部員たちを守ることもあなたの役目なのを忘れないように」
境先生は良き理解者でありナオトの担任でもある。どこか見透かされているようで背筋が伸びた。
「はい、わかりました」
そう返事をすると先生は続けた
「弟君にもよろしく伝えておいてください。ビスケットをたくさん用意しておきます」
緊張した空気は和み先生は笑顔を見せてくれた。先にナオトは席を立ち部屋を出る。いつもより多い荷物を抱えてマサルの待つ校庭へと向かう途中、新校舎と旧校舎を結ぶ渡り廊下でタケシらとすれ違うことになった。
「ナオト、沼の怪獣は俺たちが見つけてやるから心配するな」
タケシが先に声をかけてきた。悪意のある挑発にはのらず無視することにする。
「こないだ中沢って変な記者が来て色々調べて回ってたぜ」
中沢はタケシにも会ったらしい。ただこんなやつの言うことに何の収穫もなかっただろうとナオトは思いつい顔に出てしまった。
「お前、今笑っただろう?」
詰め寄るタケシに全く怯む様子を見せないナオト。取り巻きの佐々木ヤスマサはよしなよとタケシを抑えている。
「弟を待たせてるからもういくよ」
タケシの口元に悪意のある笑みが表れる。
「マサルとか言ったっけ?お前の弟。大変だなお前んちも」
タケシの言葉には含みがあった。それを聞いてナオトは血が逆流するような怒りが込み上げてきた。
「コラー!」
新校舎から大声が響いた。キョウコの声だ。後ろには書道部の顧問(原先生)を連れてきている。君たち何やっているのと原先生の声。続きはまた今度だと捨て台詞を残しタケシたちは逃げていった。新校舎にある書道部部室で異変に気づいたキョウコは助け舟を出してくれたのだろう。ことの顛末を原先生に説明するナオトだがもちろん沼のことは口には出さなかった。
キョウコも部活を終えたばかりだったので3人で下校することにした。
「らしくなかったね。何か言われたの」
いつものキョウコの態度だった。普段は気にならなかったがナオトの気に触った。母親が見せる表情に。
「別に何でも無いんだ」
不機嫌な態度にそれ以上キョウコは何も言えなかった。4号棟の分かれ道、マサルにだけ「またね」と言って去っていく。マサルはナオトの顔をしばらく見つめ「帰ろう」と言った。
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