11ナオトへのインタビュー

日曜日の午前、インターホンの音にマサルは玄関に飛んでいった。母親は出勤日で家の仕事はナオトたちの役割になっている。


「だあれ?」


マサルの声を聞いて


「三川ニュータウン交番の白鳥です」


ガチャリとドアノブが回り6歳の子供には少し重いスチール製のドアを押し開けてマサルが顔を出した。


「ケンちゃん!どうしたの?」


「こんにちはマサルくん、今日はお兄ちゃんに用があってお邪魔したよ」


マサルは後ろに立っている知らない男に目を配らせ、不安げな表情を窺わせている。それを見て白鳥巡査は中沢を紹介した。


「こちらは中沢さん」


中沢は帽子をとり挨拶した。マサルは挨拶もせずに振り向くとドタドタと走ってナオトを呼びにいった。奥の部屋で洗濯機を回していたナオトは手をとめて、玄関に向かう。


「ケンちゃん。そちらの方は?」


白鳥巡査は事の発端を説明し中沢に話を譲った。


「月刊ウーの中沢です。白鳥巡査の紹介で山田君に会いに来ました」


「月刊ウーの人ですか。僕も読んでいます。写真を見たんですね」


この人は沼の未確認動物の取材に来たのだ。雑誌社の名前を聞いてナオトは要領を得た。インタビューを受けることを承諾すると、ここではご迷惑なのでと中沢。両親が留守で子供だけの家に上がり込むのは不謹慎だと感じていた。それならばと白鳥巡査は場所を変え喫茶店ではどうかと提案した。


団地内には一階が店舗スペースになっている棟があり、そこにはスーパーや飲食店があり喫茶店もあった。インタビューの間マサルの守りを喫茶店が併設する4号棟のキョウコに頼むことにし、ナオトは電話をした。


………………………………………………………………………………………………


喫茶コロラドの中は空調が効いていて涼しかった。なんでも好きなものを頼んで良いと言われナオトはアイスティーを注文した。中沢はホットコーヒーを頼み鞄の中から革の手帳と、マイクロテープレコーダーを取り出した。


「未確認動物探索部のことを巡査から聞きましたよ。本誌も読んでくれているとか」


「はい、未確認動物特集の時は必ず読んでいます。先月のUFO特集もとても面白かったです」


「甲府事件の特集ですね、ありがとう。あの記事は評判が良かったんですよ。宇宙人遭遇譚の多くはいかがわしいものが殆どなんですが、客観性において時系列や複数の目撃者の証言で信憑性の高い事件だったので特集を組みました」


「僕も同じ意見です。UFOと少年たちが遭遇した生き物とは関連性があると思います。ですがUFOイコール宇宙人の乗り物とする神話がこの事件の本質を見失わせているとも思います。その点でウーの記事は客観的な事実のみを丁寧に分析していてとても良かったと思います」


面白い子だなと中沢は思った。確かに前回の甲府事件特集は、子供のいたずらと一蹴されがちなUFO遭遇譚を、今一度客観的な立場で再検証するテーマであったからだ。その会議に自分も出ている。


「本題に入ろうかな。まず新聞に掲載された写真は山田くんが撮影したものですか?」


「僕ではありません」


神妙な面持ちに嘘を匂わすところはないように見えた


「心当たりはありますか?」


「うちの生徒の誰かだとは思います」


なるほど白鳥巡査の言うとりだと中沢は思った。


「同じ研究家として例の写真の山田君の見立てを聞かせてもらえませんか」


「そうですね、この写真から得られる情報だけでは写ってる被写体が動物だとは断定できません。木の影がそう見せているだけかもしれませんし。何より美しくない」


中沢はこの意見に全く同意見だった。ただ得てしてこの手の写真は、ピンがあってなかったり、画像が荒かったりで不鮮明なものが多い。ナオトは続けた。


「葦原の隙間から見えている部分から推測すると、何かしら光を反射する物体がそこにあった可能性はあると思います」


「なるほど。その正体はさておき光学的にこの写真は何かを写しているということですね」


「そうです。撮影者がその被写体を撮ろうとした意図も感じます」


「では質問を変えます。山田くんは貯水池、つまり沼の噂話について研究されていたそうですが、ズバリその正体はなんだと思いますか?」


「……沼の噂話の殆どは作り話や見間違いです。僕が低学年の時に沼に行って遊ぶのが流行ったんですが、今ではもうみんな飽きてきて、でも今年の事件をきっかけに再び注目が集まり、今回の写真もそれに便乗した愉快犯の仕業だと思っています」


中沢はナオトが殆どといった言葉を聴き逃さなかった。


それから中沢は沼の由来などを聴きナオトは丁寧に答え、お互いの未確認動物に対する意見を交換しあった。二人は似たもの同士だった。


「参考になりました。何か良い情報があったら編集部の方へ連絡ください」


おそれ入りますとナオトは頭をさげ、飲みかけのアイスティーを音も立てず飲み干した。その様子を中沢の眼鏡の奥に光る目が、何かを読み取ろうと探っていることには気づいていなかった。


……………………………………………………………………………………………


喫茶店を出ると外はもう真夏の日差しだった。他も何人か取材をしてみると中沢は月刊ウーのロゴが入ったボールペンをナオトに渡した。終日取材した後交番に顔を出して帰ると言い二人は別れた。あずけてあるマサルを迎えに行こうと歩いていると、おもちゃ店の前でキョウコとマサルに会った。どうやら店頭のガチャガチャで遊んでいたらしい。キョウコはカプセルからでたスライムに悲鳴をあげマサルはそれを見て笑っている。


「無駄遣いするなよ」


ナオトは二人に近寄り言った。


「インタビュー終わったのね、どうだった?」


緑色のスライムが細い指に絡みついている


「写真のことを聞かれたよ。誰かの悪ふざけだって言っといたよ」


「秘密の場所が暴かれるかもしれないわ」


「そうだね。慎重に行動しないと」


マサルはさっきから他のカプセルを開けようと苦戦している。どれかしてみろとナオトはそれを開けた。中にはキーフォルダーの付いた小さなライトが入っていた。簡素な作りだがスイッチをONにすると目が眩むほどの照度だった。マサルに渡そうとするといらないとそっぽを向かれ、またさっきのスライムで遊び始めた。貰っとけばとキョウコは言った。


ナオトはその小さなライトを気に入りリュックサックにつけることにした。






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