第7話 エピローグ

戦いから数か月。

MADOは安定を取り戻し、各地の結界も息を吹き返した。

砦も町も活気を取り戻し、人々の笑顔が戻ってきている。

だが、僕はまだ元の世界に帰る方法を見つけられずにいた。


「なら、しばらくこちらで研究していけばいいじゃないですか」

リィナは、まるで当たり前のことのように言った。

差し出された机には、魔導素材で作られた新しい基板と、山のような回路図が並んでいる。

異世界の素材と構造が生む挙動は、僕の知る理論を軽々と飛び越えていた。


手を伸ばすと、半田ごての代わりに使う魔力ペンが指に馴染んだ。

電圧の代わりに魔力が走り、波形が結晶の中を流れていく。

――こんな回路、前の世界じゃ一生触れなかっただろう。


やがて、研究室には見習いの若者たちが集まるようになった。

「ソーマ先生、次は位相制御の改良ですよ」

彼らは僕の周りに図面を広げ、真剣な眼差しで意見を交わす。

気づけば、僕はこの世界で“魔導回路の研究者”と呼ばれるようになっていた。


帰る道はまだ遠い。

でも、回路が光を灯し、誰かの未来を守れる限り――僕はここで戦い、そして創り続ける。

それが、僕にとってのもう一つの“安定”になりつつあった。


ふと、窓の外に耳を傾ける。

この世界にも、静かに降る夜の雨がある。

あの夜、ディスプレイの光の中で聞いた音と、どこか似ている。


その音を聞きながら、僕はゆっくりと椅子に背をあずけた。

でも、この世界で回路を組み、誰かを守れる限り——僕はここで戦い、そして創り続ける。

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