第5話 偽ノードあらわる

MADO稼働から三日後。

城下町は静まり返り、夜の空気には一片の緊張もなかった——表面上は。


深夜、制御室のモニタに異変が走った。

地図上に、存在しないはずの小さな光点が浮かび上がる。

それは結界ノードの網の外——地理的にも不自然な位置だった。


「……誰かが、勝手にノードを増設してる?」

リィナが声を潜めた。


次の瞬間、通信ログが一斉に乱れ、

複数の新しいノードが連鎖的に追加されていく。

まるで見えない手が、世界地図に赤い印を刻み込んでいるようだった。


そして、モニタの片隅に開いたはずのない通信ウィンドウ。

スピーカーから低く、しかしよく通る声が響いた。


「……久しいな、“再訪者”。また会えるとは思わなかった」


声には皮肉とも懐かしさともつかない響きがある。

「私はヴァルグ。かつて東方戦域で“黒曜の技師”と呼ばれた者だ。

 お前が今使っているその技術——あれは以前、お前自身が私に見せたものだ」


背筋に冷たいものが走る。

覚えがない。だが、声の向こうの男は確信している。


「MADOは素晴らしい構造だ。だが、現王家の器には収まりきらぬ。

 私は、より強固で秩序ある結界網へと作り替える」


モニタ上の偽ノード群は、その言葉に呼応するように点滅を速める。

解析結果が表示された瞬間、僕は息をのんだ。


それらは、僕の使うFPGAボードと瓜二つの制御回路を持っていた。

ただし基板の端には、見慣れない黒い水晶のような部品が埋め込まれている。

そこからは、既存の結界同期をわずかに乱す信号が発せられていた。


// Attack: rogue node injection

add_node(fake_node, phase_offset);


「……偽ハードか」


僕は即座に対策コードを流し込む。


// Counter: node-auth with phase challenge

if (verify_node(node_id) && phase_match(ref_clk, sys_clk))

accept_node(node_id);


だが偽ノードは次々と形を変え、別のポートから侵入を試みてくる。

位相をねじ曲げ、波形を歪ませ、同期ランプを赤に変えていく。


(このままじゃ、全部の結界が食われる……!)


背後でリィナが息を詰める音が聞こえた。

僕はモニタから目を離さず、ただ一行でも速くコードを叩き込んだ。

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