第3話 国王からの呼び出し
防衛結界を修復してから二日後、僕は城の玉座の間に呼び出された。
あの時の修復が本当に偶然だったのか、それとも別の理由があったのか——。
その答えが聞けるかもしれない。そんな思いもあって、僕は呼び出しに応じた。
天井はやたら高く、窓から差し込む光が赤い絨毯を長く照らしている。
壁には巨大な旗が下がり、その金糸の紋章が淡く輝いていた。
絨毯の奥、金色の鎧をまとった大柄な男が玉座に腰掛けている。
「異界の技術者、ソーマよ」
低く響く声が、広い空間に重く落ちた。
「そなたの力で南方結界拠点は救われた。礼を言う」
「いや、あれは本当にたまたま——」
「……そなたは謙遜するか」
国王は口元をわずかにほころばせ、玉座の脇に控える書記官に合図した。
書記官が巻物を広げかけたところで、国王が手を上げて制した。
「いや、私の口から言おう。
全防衛拠点の結界を、一ヶ月以内に安定化してほしい。
……そなたの力が必要なのだ」
「……一ヶ月!? いや、数十箇所あるって聞きましたけど!?
そもそもインターフェース仕様も——」
国王は深く頷き、声を低くした。
「いま、東方と北方の拠点が次々と魔導砲撃を受けておる。
敵は、我が国の結界網だけを執拗に狙っておるのだ。
結界が破られれば、砦も町も丸裸となり、民の命は風前の灯火となる」
その表情には切迫感が滲んでいた。
「各地の拠点にも、そなたが使ったものと同じ“古の再訪者”の制御回路がある。
全てを安定化できれば、この国は救われる」
「もちろん、これは正式な依頼だ。報酬も滞在も保証しよう。護衛や資材もすべて用意する」
国王は笑みを浮かべた。
「そなたの技術が必要なのだ」
横でリィナが頷く。
「私も同行します。各地の回路を解析して、あなたが接続できるようにします」
国王は深く腰を掛けたまま、こちらをまっすぐに見据えていた。
東方と北方の拠点、民の町、数十箇所の結界——。
一ヶ月で、それら全てを安定化させる。
(……本当に、僕にできるのか?)
南方拠点は偶然うまくいっただけかもしれない。
あのときと同じように、次も動く保証なんてない。
国王は、そんな逡巡を見透かしたように頷き、静かに言った。
「そなたならできる。これは確信だ」
南方拠点で見た、兵士たちの安堵した顔が頭をよぎる。
好奇心と責任感——すべてが僕を前に押し出していた。
「……わかりました。やってみます」
国王は笑みを浮かべた。
「……再び来てくれて、感謝する」
(……再び? 何のことだ?)
玉座の間を出ようとしたとき、ふと壁に掛けられた古い肖像画が目に入った。
そこには、僕そっくりの青年が描かれていた。服装は全く違うのに、目元も口元も同じだ。
しかも、その手に抱えているのは——どう見てもFPGAボード。
胸がひゅっと締まる。
(……気のせいじゃ、ないよな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます