満たされる探究心
街は鎮魂式の会場となっていた。
元、仲間であろうものがあって、
それを地に帰している人間たちがいた。
墓地となった集合場所はもはや新鮮な草木はなく、黒く炭になった仲間と幹が目に入るようばかりだった。
生きるってそんなに難しいことなんだろうか。
他を知らない私は悠然と生きてきた。
雪解け水で体を清めたり
木の新芽を食べることだってあった。
幸せ……まあそうか。幸せなのか。
私はこの墓地を目の前にして、いよいよどうしたいも無くなった。
いっしょになりたい、飛び込みたいとさえ思い始めた。
離れることにした。
もうここへは来ないだろう。
「ねえ?君もここに居た子かい?」
人間を恐れ、遠くでじっと見ていた仲間だ。
ただ私よりもずっと年上に見える。
「そう。あなたもここに居たの?」
仲間は少し悲しそう顔をした。
「そうだ。大事な仲間がいたんだ。でもあそこで炭になっている。
だから僕は知りたくなった。街がこうなってしまった理由を」
一緒だ。知りたい、欲している仲間だ。
「私も知りたいことがあるの。」
「そうか。君はまだ幼い。その背中の模様がその証拠だ。君は知らなくていい。どこか静かなところで暮らすがいいさ。」
悲しい目は慈愛に満ちている。
そう、私はまだ子ども。
小さいし体力もない。
でも、知りたいと言う探究心は底なしで湧いてくる。
「静かな場所なら散々見てきた。
でも、誰もいない。静かなんだ。」
「ふふっ…。君は面白い子だ。
君も知りたいんだね。じゃあ仲間じゃないか。着いてきなさい。仲間がいるところへ導こう。」
すると踵を返し大股で歩いて行ってしまう。私にはそれが走っているように見えた。
とても追いつけない。
やっぱり小さいから…
「そらそうだろうよ。だから少しずつでいいんじゃないかな?
焦らなくていい。僕もそうして大きくなったんだから」
それから。なんだかんだ面倒を見てくれるようになった。
今までよく分からない草を食べていたけど
食べれるものそうじゃないもの。
教えてくれた。
「アレはなに?」
「あれは虹。雨が降った後によく出てくるきれいなものさ。」
「食べられる?」
「君が近づけるようになればね」
知りたいことが知れる。これは私にとって満たされる体験だ。
と、同時に疑問も浮かぶ。
「おじさんは誰に教えてもらえるの?」
「お、おじ……。
そうだな。僕は大人だから、知りたいことは自分で確かめるんだ」
かっこいいなあ。私もそういう大人になりたい
「そっか!じゃあ私はまだおじさんに教えてもらうね」
ひとりじゃない幸せ
教えてもらえる幸せ
こんなに楽しいことなんだ。
これが私の欲しかったことなんだ……!
心が満たされていくのを感じた。
起きると「おはよう」
寝るとき「おやすみ」
当たり前がこんなに嬉しいなんて知らなかった。
それは、ほんの一瞬に過ぎなかった
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