第28話 久々のミッション

「来たわ~。来たわよ、やっと来たぁ!」


 ガールが何個も段ボールを抱えて鼻歌交じりに嬉しそうにリビングではしゃいでいる。


「何が来たんですか?」


 僕と凜々花は丁度人工ミルクでサプリメントを飲み干している所で、凜々花はその量の多さに人工ミルクを何度もおかわりしていた。


「ピュア~。あんたって本当に鈍よね! だからベイビーのお世話はあたしに任せておけばいいってボスにも言ったのにぃ。これはベイビーの洋服よ! それと、全員の神明と戦う時に着る戦闘服!」


 ガールは段ボールから何枚も子供服? を取り出すと、きゃっきゃと歓声を挙げてそれを眺めている。


「こんなに……? ガールさん、わたし、こんなに洋服を貰って良いの? わたし、お金ないよ……?」

「良いのよ~。お金なんてあたしだってないわよ。博士から聞いてない? うちらの資金源はハッキングした銀行からのお金だって」

「えぇ!? ……聞いてないです」

「そっかぁ。うっかりしてるなぁ博士ったらぁ。だから、ベイビーも欲しいものがあったらイヤリング型イヤホン端末を使って支払っちゃってねぇ」

「そうなんだ……。ありがとうございます」


 そういえば、僕ってここに来てから支払いって特にした事ないなぁ。欲しいものが無いっていうか、何でも揃ってるっていうか。僕の服は大体ボスから貰ったものだし、戦闘服もいつの間にか用意されていたっていうか。


「ガールさん、この不思議な柄の服は何?」


 ベイビーが手にしたそれは、何だか鈍い色で幾何学的な模様が沢山書かれている柄だった。


「あぁ、それぇ? 二十世紀から二十一世紀に戦闘服で使われていたっていう迷彩柄よ~」

「迷彩柄……」

「この模様って、自分の存在を周囲に溶け込ませるっていうか、目立たなくさせるっていうか、そういう効果があるみたいなのよねぇ。昔の軍隊とか日本エリアの自衛隊とかも着ていたみたいよ」


 こういうのって、凜々花とか博士のサイズもあるものなんだなぁ。ガールって一体どこから洋服買ってるんだろう。きっとこれも裏ルートから手に入れたものなんだろうけど。


「今の軍服は大体がスマートポリマー製でシンプルなデザインが多いからね~。ちなみに、この迷彩服もスマートポリマー製よ。熱とか光とか、外部刺激から守ってくれるわ」


 何だか凄い素材で出来ているんだな。ボスと出会った時に貸してくれたパーカーもスマートポリマー製ってやつなんだろうな。あれを着たら地上の太陽光の刺激が大分楽になったもの。


「おー、俺らの一張羅が来たのか。なかなか良いセンスじゃねぇかガール。やっぱこういうのはお前に任せるのが一番だな。博士は素材には詳しいけど美的センスがイマイチだ」

「何か言いましたか? ボス」


 テーブルで何かの装置を作っていた博士がキッとボスを睨む。


「怖い目で見るなよ博士。俺はお前の知識とかは信頼してるんだよ。ただ、洋服のセンスだけはガールの方が上っつぅかな?」

「服なんて着られれば良いじゃないですか」

「あーん。ダメよ博士そんなんじゃ。女の子からモテないわよぅ?」

「モテなくて結構。レジスタンスの所に嫁に来てくれる奇特な女子なんていませんから」

「そんな事ないわよ。ねぇ、ベイビー?」


 ガールにそう振られた凜々花は顔を真っ赤にして俯いてしまった。博士の奴、この間の事皆に喋ったな!?


「それはそうと、ベイビーに実戦経験を積ませるためにも、久々に美食家の粛清に行くぞ」


 ドクン……と僕の心臓が跳ねた。ここ最近ご無沙汰だったけど、久々に銃を使う機会がやって来る。またあの美しい血飛沫が見られる。そう思うと僕の中の獣が咆哮を上げて喜んでいる。


「どこの美食家を殺しに行くんですか?」


 僕はつい前のめりでボスに質問をしてしまう。


「あぁ、ちょっと遠いが神奈川エリアの地下都市に住んでいる女の美食家を殺りに行く。結構前に紫雨から情報を手に入れてたんだがまだ手付かずでな」

「何で今まで殺しに行かなかったんですか?」

「うーん。特に理由は無いんだが、強いて言えば、その美食家が親子だからって事かな」

「親子?」

「四十代の母親と十代の息子らしい。父親とは離婚しているみてぇでな。その母親ってのが、AI美顔器の商売で財を成したらしくて、今は会社の会長として安穏と美食に溺れて暮らしているっていうな」


 人はある程度の金を手に入れると、何故美食に溺れ、自堕落な方向に歩んでいくのだろうか。


「紫雨の話によると、その親子、らしくてな」

「え? デキてるって……え……? 実の親子じゃないんですか?」

「実の親子だよ。だから問題なんだ。それに感づいて親父は出て行ったって話も聞いている」


 うわぁ……。何だか吐き気がする。実の親子が好き好んでそんなコトしちゃうのってちょっと抵抗がある。ちょっとっていうかかなり、か。美食と色に溺れたおじいさんならこの間殺したけど、もっと凄い人間がいたものだなぁ。


「どうだ、殺れそうか? ベイビー」

「分からない。分からないけど、わたし、銃のセンスはあるってピュアに言われたわ」

「そうか。頼もしいな。他のスキルはどうなってる、ピュア」

「あ……筋肉はまだそんなに付いていないですけど、ターボシューズを使った浮遊戦のセンスはあると思います。身のこなしが軽いから、凄く速く動けるんですよ。体幹もしっかりして来ましたし」

「この短期間にそれだけ出来るようになってりゃ上出来だ。今回はマシンガンまでは要らねぇ。一般的なお偉いさんの家に乗り込むだけだ。息子としけこむための家だし、余計な人員もいないと思うからな」


 博士は早速ボスから転送されてきた住所を検索し、デジタルアイで画像を投影する。


「ふーん。なかなかの規模の家ですね。でも、突破は簡単そうです。こういった享楽に耽る人間は大抵の場合家の奥にいますから、突入も簡単です。ベイビーのデビュー戦にはもってこいでしょう」


 二人……ターゲットは二人いる。一人は凜々花が殺すとして、残り一人は……?


 僕の背中がぞくりとする。それと同時に、こんなに血を求めるようになった己に恐怖を覚える。


 あれほど凜々花には無垢であって欲しいと願っていたのに、今はもうそんな事は二の次になっている。むしろ、凜々花もになったら、それこそ僕から逃れられないとすら思ってしまう。


「ピュア……怖い顔して、どうしたの?」


 凜々花が心配そうな眼で僕を見る。


「あ……あぁ、何でもないよ。うん。ベイビー的に、今度のそのミッションが大丈夫かなって」


 僕は二枚舌なのか? こんな事、すらすらと言えるような人間でもなかったのに。僕はここに来てから自分が大きく変わってしまったのを感じている。


「ありがとう、ピュア。わたしは大丈夫。きっと、立派に美食家を殺してみせるから。わたしは、大人になるの」

「その意気だぜぇ、ベイビー」


 ボスは前祝いだとばかりにアルコールを煽る。


「お前も俺らの真の仲間になるために頑張れよ。それに、美食家を殺ったら次は神明だ。俺は何としてでもあいつの場所を特定してみせる。この間、他のエリアのレジスタンスにも協力を要請した所だ。衛星を持っているレジスタンスにも頼んでおいた。地上にあいつのアジトがあったって見付け出してみせるぜ」


 世界のレジスタンス事情ってどうなってるんだろう。僕が知っているのは北ヨーロッパエリアのアマリアさん達だけだから。


「ねぇ、ボス。お酒を飲むのは美食の内に入らないの?」


 凜々花がかつての僕みたいな疑問をボスにぶつける。やっぱりそこは気になるよね……。


「あぁ~。酒はなぁ。ある意味薬だから。疲労もぶっ飛ぶし、テンションも上がるし」

「そんなものなの?」

「あぁ、そんなもんだ。お前も成人したら飲んでみろよ」

「わたしはやめとく」

「そうか。それならそれで良い」


 凜々花がこの間話してくれたけど、凜々花の母親はアルコールと男に狂って凜々花をろくに育てなかったそうだ。もちろん、美食にも溺れていた。どこからそんな金が? とは思ったけど、母親には母親なりの稼ぎ方っていうものがあったんだろう。


 だから、凜々花はアルコールにポジティブなイメージを持たない。だから、僕も生涯アルコールは口にしないでおこうと思う。


「それで、いつ美食家親子を殺しに行くんですか?」


 ちょっと僕、食い気味過ぎるかな?


「おう。明後日よ。明日はその準備期間とする。いつも以上にトレーニングに励んどけ」


 明後日。明後日、凜々花の無垢な部分の一つが汚される。


 それは、僕にとって嬉しい事なのか悲しい事なのか。


 それすら、僕は自分で自分が理解出来なかった。

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