ep.17 宮廷の変貌

登場人物

昭公しょうこう…………国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。

季平きへい…………魯国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

王子喬おうきょう…………冥界より派遣された方士。

蚩尤しゆう…………邪神。

陽虎ようこ…………三公に仕える魯国の若き重臣。

裴巽はいそん…………魯国の若き将校。あやかしの飛廉ひれんしもべに持つ。

蒼頡そうけつ…………妖し。剣の手練者てだれ。蚩尤に仕える九黎きゅうれいのひとり。


かん…………狸に似た隻眼せきがんの妖し。

鐸飛たくひ…………怪鳥の妖し。人面で一足。


「…………」

 何とか命を繋ぎ止めた文官も、陽虎ようこに続くようにして皆、拝跪はいきした。

「己の物差しより規格外の脅威を眼にすると、簡単に平伏ひれふすのが人という生き物」

 蚩尤しゆうは、おもむろに右の三本の腕のうち、二本を差し出すようにすると、人差し指をくいっと上に向けた。

「それが、脆弱ぜいじゃくな生き物の性質たちだ」

 六つの眼を細めた蚩尤が、愉悦に浸ったそのときだった。

 轟音と共に、また地が揺れ出した。

 すると――。

 宮廷から一望できる周辺の地が割れた。割れると、地響きと共に地が約五間(十m)もり上がり、き出した地盤が壁面のようになった。

「な、何だ――⁉」

 驚愕きょうがくの様相を成して立ち上がった陽虎が、よろめきながら声を荒らげた。

 微笑を浮かせた蚩尤の眼前で、三公が屈めた身を寄せ合いふるえている。

 地鳴りはまだ続いていた。

 宮廷の周囲は、更に約五間盛り上がったようになると、宮廷は高台に居を構える城塞のようになった。

「……地形を……変えた……?」

 陽虎は眼を剥いたまま、ゆっくりと蚩尤に振り返った。

 三公を見下ろす薄気味の悪い笑みが見えた。

「これくらいで恐れるとは片腹痛い。貴様らの所業の方が、よほど恐ろしいと思うがな」

 そう云うと、蚩尤は呵々かかと大笑した。

「居城としては充分ですな」

 人が入って来た気配はなかった。

 棒立ちの陽虎と床に伏したような官僚たちが、こぞって玉座とは反対側を振り返った。

 長い白髪を赤い巾で結っている。まとった長袍ちょうほうは深紅で、腰に巻いた獅子模様の玉帯に長刀をびていた。柳眉りゅうびの下には左右二つずつ切れ長の眼を備えている。

蒼頡そうけつか。早かったな」

「私が一番近かったのでしょう。いにしえの封印も時を重ね弱まっております。蚩尤さまによる数度の地震ないにより、その封印も解けたかと。皆、間もなく集いましょう」

 爽やかな微風そよかぜを受けるに相応しい清雅の気色が漂っているようだった。しかし、四つの切れ長の眼は冷ややかだった。

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