ep.18 巨人の妖し

登場人物

昭公しょうこう…………国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。

季平きへい…………魯国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

王子喬おうきょう…………冥界より派遣された方士。

蚩尤しゆう…………邪神。

陽虎ようこ…………三公に仕える魯国の若き重臣。

裴巽はいそん…………魯国の若き将校。あやかしの飛廉ひれんしもべに持つ。

蒼頡そうけつ…………妖し。剣の手練者てだれ。蚩尤に仕える九黎きゅうれいのひとり。

赫胥かくしょ…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。


かん…………狸に似た隻眼せきがんの妖し。

鐸飛たくひ…………怪鳥の妖し。人面で一足。

夸父こほ…………巨人の妖し。性質たちは狂暴。隻眼で緑の皮膚。


「一番乗りは蒼頡そうけつか。ごみには眼もくれず向かって来たのだがな」

 小脇に短槍を挟み、腕を組んでいる。槍の穂は、燃えるようにあかい色をしていた。玉座の間の中ほど、その壁際に背をもたせ掛け、蒼頡に挑むような視線を投げている。頭は剃髪ていはつで、顔も含めた全身におぞましい色と模様のげいが入っていた。隆々とした筋骨を惜し気もなくさらすように、肩と腰回りにだけ紅く染められたみのまとっている。

「残念だったな」

 蒼頡は、切れ長の眼を更に細め微笑を返した。

「久しいな、赫胥かくしょ

 蚩尤しゆうは、壁にもたれた全身刺青ぜんしんいれずみの赫胥に声を放った。

 赫胥は、蚩尤に顔を向けて頷首がんしゅを返した。

「――――⁉」

 新たな異質の者の出現に、その場にいた者はどれもてつき、声を失った。

 そんな宮中に仕える者のことなど意にも介さず、蒼頡は提案した。

「蚩尤さま、夸父こほを召喚してはどうでしょう?」

「夸父とは、また懐かしいな」

「はい。封印されている間に、どうやら随分と人が増えたようでございます。夸父であれば、我らも労さずしてかてを増やすことができましょう」

 得意げに云った蒼頡に、赫胥は小さく舌打ちしてそっぽを向いた。

「いいだろう。五十もあれば、事足りよう」

 不気味に笑った蚩尤は、眼前に三つの合掌がっしょうを作ると、瞑目めいもくして何やら呟いた。

 途端に――。

 皮膚は深い緑色だった。隆々とした筋骨だったが、少々腰が曲がっている。どれも黒い蓬髪ほうはつで大きな隻眼せきがんを備え、袈裟懸けさがけに獣の毛皮を纏っていた。五十体ほどだった。ぼうっと、城郭まちの至るところに現れたのは、身の丈十六尺約四・八mもの巨人のあやかし、夸父だった。

 大きな手には、荒々しい凹凸おうとつのある棍棒こんぼうが握られている。野太い雄叫おたけびを上げると、夸父たちは棍棒を振り回し、次々と民を襲い始めたのである。

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