ep.5 三公の野望

登場人物

昭公しょうこう…………国の第二十五代君主。三公により魯国を追放される。

季平きへい…………魯国の司徒しと。三公のひとり。三桓氏さんかんしと呼ばれる。

叔孫豹じょそんひょう…………魯国の司馬しば。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

孟献もうけん…………魯国の司空しくう。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。

王子喬おうきょう…………端整な顔立ちの青年。


「何も困るようなことはあるまい」

 両耳の作りが小さい。季平きへいの右方より恰幅かっぷくの良い身を寄せて云ったのは、季平と変わらぬ五十路の三公、司馬しば叔孫豹じょそんひょうだった。軍政と軍務を司るのが司馬である。

「左様。これまでどおり、我らで国を統治すれば良い」

 口許を覆うほどの白髭を蓄えている。季平の左方より身を寄せたのは、これも恰幅が良い三公のひとり、季平、叔孫豹と違わぬ年代の司空しくう孟献もうけんだった。司空は土木工事や各種工作を司った。

「そんなことはわかっておる。わし昭公しょうこうさまの身を案じたのだ」

 季平は叔孫豹と孟献を交互に見遣ると、溜息混じりで返した。

「ん?」

「はて?」

 怪訝けげんな顔を向けた叔孫豹と孟献に、季平は不気味な笑みを浮かべた。

「果たして、国を捨てて逃げるような君主を受け入れる諸国があろうか? 勿論もちろん、我が国も再び迎え入れる気は毛頭ないがのう」

 叔孫豹と孟献の相貌そうぼうが、季平と同じような笑みとなった。

「確かにのう。だが、仕方あるまい。昭公さま自らが撒いた種じゃ」

「我らの働きにより、昭公さまの手をわずらわせずに済んでおったというに。それに気付かぬとは、憐れなお方よのう」

 季平は、空いた玉座に冷ややかな視線を投げるときびすを返した。

 それに叔孫豹と孟献も続いた。

「我ら三桓氏さんかんしさえおれば、魯は久遠くおん、安泰であろう」

 云った季平に叔孫豹と孟献が頷首がんしゅすると、三人はそろって呵々かかと大笑した。

 これより魯国は、八年もの間、正統な君主が不在の異質な時代へ突入することとなる。


 二年ばかりの時が過ぎた。

 頭には白い藤蔓ふじつるかんむりいただいている。その端整な顔立ちの青年は、青い方衣をまとっていた。

 王子喬おうしきょう――。

 その青年が与えられた名だった。

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