第2話 身だしなみの時間

 そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、ご主人様。

 桜姉さまのことは、わたしが誤魔化しておきましたから。 えへへっ。

 洗面所はこちらですよ~。


 温かいお湯で、お顔を洗ってさしあげますね♡

 泡立てネットで、もこもこの泡ができましたよ♡

 これで優しく洗ってさしあげますねー♡

 ご主人様のほっぺた、つるつるで柔らかいです♡


 はい、もう一度お湯で流して……さっぱりしましたね。

 タオルもふわふわで、気持ちいいですよ♡


 次は歯磨きですよ~。

 歯ブラシに、ご主人様の好きな歯磨き粉をつけました。

 うふふ、わたしがご主人様のお口の中を、隅々まで綺麗にしてさしあげますから、 ね♡


 ほら、ごしごし……ごしごし……♡

 あっ、桜姉さまが呼んでます……ごめんなさい、これ以上は待たせられませんね。いってらっしゃいませ、ご主人様。 お気をつけて。


◆◇◆


 遅いわよ、豚。本当に愚鈍なんだから。

 準備にこんな時間がかかるだなんて、桃がすぐに連れてくるって言ってたのに……


 え、便秘気味ですって?

 もうっ、そんな愚かな言い訳が通用するはずがないでしょう!


 ……まあいいわ、時間の無駄はもうたくさんよ。

 さあ、すぐにこちらへ来なさい。


 まずは、わたくしの髪の手入れからよ。

 この美しい髪を、お前のような下等な存在が触れることを許してあげるわ。 光栄に思うことね♡


 ブラシを、もっと優しく、丁寧に。

 ああ、まだ絡まってるじゃない。 やり直し。一筋残らず、完璧に梳かしなさい。

 髪は女の命なの。 傷つけることなど許さないわ。


 ふふ、次は着替えよ。 このドレスを、わたくしが着やすいように広げなさい。

 え、下着が見えてしまうですって?

 ……それで何が困るというのかしら?

 お前は男ではなく、わたくしの従順なペットなのだから、そんなことは気にしなくてよ。

 いいからさっさとドレスを着せて、背中のリボンをしっかり結ぶのよ。締め付けが甘いと着崩れて、みっともないでしょう?


 ……あんっ♡

 もうっ、キツくし過ぎよ。

 崩れないように、でも圧迫し過ぎないように、加減が大事なのよ。

 お前の存在意義は、わたくしをより美しく引き立てること。

 そのことを決して忘れてはならないわ。


 最後は、香水の確認よ。

 軽く香水を振って、わたしの首筋に近づきなさい♡

 それから、胸元へ……♡


 うふふ、いい香りでしょう?

 この香りは、高貴なわたくしにしか似合わないわ。


 香水がわたくしの匂いと混じり合って……♡

 まあ、犬のようにはしゃいじゃって……♡

 こらっ、そんなところまで嗅がなくていいのよ♡


 お前のような者に、この香りの価値など分からないでしょうけれど……いいわ、お前はただ、わたくしの要求に応える従順なペットなのだから。 そのことを自覚して、わたくしに朝から晩まで尽くしなさい。


 さあ、今日も一日みっちりと奉仕させてあげるわ。 わたくしのために奉仕できることを光栄に思うことね。

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