杏という少女 #1
『もしもし、八重? 現場の方はそろそろ本部の人間が応援に来ているから抜けられるでしょ?』
『やあ、
『『今すぐスマホに送った住所へ向かって』もらえるかな』
それぞれの陣営のリーダーからそのような指示を受けた二人の右腕は言われるがまま、スマートフォンに送られてきた位置情報が指し示す住所へ向かった。
「これって……」
「一人で引き受けるような仕事じゃないでしょ……」
現場に到着した海と
「あの、勘違いでなければ巻島刑事ですよね?」
「そういう君は、先本さんのところの」
「助手をしている
「なるほど、二人で突入しろって事……」
「巻島刑事の方で応援を呼んだりはされていない感じですか?」
「ここが潜伏先だなんて今知った所だから」
顔を見合わせ互いの立ち位置が似通っていることに同情をした二人は溜息を吐きながら、あの二人ならこうしている間に踏み込んでいるのだろうと思いを馳せながらようやく重い足を一歩踏み出した。
「ごめんください」
警察としてのプライドから意を決してインターホンを鳴らした八重彦がそう告げると潜伏先にしては随分と綺麗な住宅の中から25歳前後の男性が顔を出した。
「あの、何かご用でしょうか?」
「私、こういう者なのですが」
呼びだしたもののそこから先はノープランだった二人は冷静を装いながらも内心では次の一手を決めかねていたが、八重彦が警察手帳を示した途端に家の中へ視線を向けた男の様子を見て二人の心を邪魔していた不安が消え去った。
「テレビやインターネットの報道で既にご存知かと思いますが、こちらの
「単刀直入にお伺いしますが、
「……はい」
「
「中に居ます」
「ご案内頂けますか?」
「どうぞ」
八郎という男は気弱な性格なのか、相手が誘拐犯だからと普段よりも強気で問いかける二人に対して怯えるような姿を見せるとあっさりと家の中へ二人を招き入れた。
「藍矢……ごめん」
「武蔵野藍矢さんと、そちらが……」
「私らが攫った子。
「杏?
藍矢に抱きかかえられ、それはもう嬉しそうにキャッキャッと笑う幼い少女と二人の男女は誘拐犯と被害者というよりは第一子が生まれ幸せの絶頂期を迎えている家族のように映りある種の違和感が生じていたが、八重彦たちが気になったのはその少女の名前だった。
「瀬理亜……本当はそんな名前だったのかい」
そう問いかける藍矢だったが、2歳の誕生日さえ迎えていない幼子が答えられるはずもなくただ両手を伸ばして藍矢の高い鼻を触って遊んでいた。
「あんな声明文を出しておいてあれだけれど、私らがこの子を保護したのには理由があってね。刑事さん、何を言っても言い訳にしかならないことはわかってる。その上で、少し話を聞いてもらえないかい?」
「もちろん、聞かせてもらえますか?」
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