Thousand Flower guess #2
「こんばんは。警察の者なんだけど、
店員に対して捜査協力の要請もせずに店内に踏み入った
「だったら何?」
「娘さんに関してお伺いしたいんだけど」
「家に居るよ」
「こちらを訪れる前に留守であることは確認済み」
「ちっ……お母さんが面倒見てくれるって言ったんだったかなぁ」
「お母様は数ヶ月前に亡くなられていますよね?」
「そうだ、そうだ。友達に預けたんだ」
「それって、名前も顔も知らない誘拐犯のお友達?」
まるで煽るような口調でそう告げた腹を立てた希亜良は今まで離そうとしなかったハンドルから手を離すと突然立ち上がり、華の胸ぐらを掴み上げた。
「一応だけど、警察手帳は示したから場合によっては公務執行妨害が適用されるけど」
「っざけんな。わかっていておちょくってんだろ!」
「言葉を返すようで悪いけどさ、そちらさんだって自分の娘がもう何日も誘拐されているってわかっていて今こうやって遊んでいるでしょ?」
「遊んで……ねぇよ」
その言葉はまるで怒られた子供のような幼さが感じられ、華は自然と希亜良の事を抱きしめるようにして背中を優しく叩いた。
「アタシらも正直この事件の内容についていまいち把握できていないからさ、ちょっと場所変えて話そうよ。悪いけど、
「……わかりました」
今の騒ぎを聞きつけて集まってきた店員に希亜良と接触するために無許可で踏み入ったことの謝罪と説明をする
「オレンジジュースなら飲めるでしょ? 飲みながら話聞かせてよ」
「別に、コーヒーも飲めるし」
「はいはい、大人ですねぇ。で、娘ちゃん……
「あの子が居なくなった日……わたしはもう何もかも嫌になってあの子を家に残して家を出て、今みたいにパチンコを打って自分の気持ちが誤魔化されるくらいに気持ち良くなってから家に帰った。そしたら、あの子が居なくなっていて。暑くてベランダの窓を開けていたからきっとそこから外に出たんだと思う」
「ここに来る前にあなたの自宅を確認したらベランダから玄関にかけて小さな足跡が残されていた。これはあくまでもアタシの推測だけれど瀬理亜ちゃんは幼いながらも母親であるあなたを探して外へ飛び出したんだと思う」
「まだ小さいのに、賢いなぁ。話を戻すけど、あの子が居なくなったと気が付いてすぐにわたしは警察に連絡しようとした。そんな時、ようやくわたしは誘拐事件のニュースを見て……あぁ、親切な誰かがあの子を引き取ってくれた。私はもう自由なんだ。そんなことを思ってしまう自分が最低だと思いながらわたしは母親としての責任を放棄して警察に連絡するはずだった手を止めた」
「そして今に至ると」
事件発生四日目にして大きな雲に隠されていた一部が明らかとなったが、明かされた内容が誘拐事件に関係なく行われていたネグレクト事案であったことに華はどうしようもないやるせなさを感じずにはいられなかった。
「ネグレクトの件に関してはまた改めて話を聞くとして、
「全く。その二人があの子を?」
「アタシたちもついさっき突き止めたばかりだから、果たしてそれが本名なのか、どういう人物なのか一切わからない。それに、誘拐された子が本当に瀬理亜ちゃんだという確証も無い。何とか手に入れた状況証拠からアタシたちが勝手に推測しているだけ」
「ニュースを見る限り全然捜査が進んでいなかったみたいだったけど、本当に何もわかっていなかったなんてね」
「誰かさんがすぐに警察に連絡を入れさえすればこのような事態にはならなかったのだけれど」
「もし、誘拐されていた子が本当にあの子だったら誘拐犯に『ありがとう』って伝えてもらえない?」
「はぁ?」
「だって、その人たちがあの子を誘拐していなかったらあの子は人知れず亡くなっていたかもしれないし」
「出会うことがあれば……ね」
母親としての責任を感じているようにも、責任を放棄しているようにも受け取れる言葉に対して警察という立場でなければ手を出してしまいそうなほどの苛立ちを心に押さえつけた華はネグレクトの容疑がかかる希亜良の手首に手錠をかけた。
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