Flower guess #2

「八重の方はどうだった?」


「ダメ。管轄内の幼稚園、保育園、小学校全て確認したけど該当する子は一人も」


 犯行声明が出されてから二度目の夜が明けていたが、警察は事件解決どころか誘拐現場や犯人像そして誘拐されたとされる『幼い少女』の特定にさえ至ってはいなかった。


「管轄外にも捜査の手は広げてみたけど該当はゼロ」


「声明が出てからもう三日目だって言うのに該当少女の行方不明届が提出されていないのも不思議なんだよなぁ。もしかして、この声明自体がイタズラだったとか?」


「それは無い」


 可能性の一つを挙げた八重彦やえひこに対して断定するようにはっきりとはなはそう言い放った。


「それも?」


「いや、刑事の勘」


「刑事の勘……か。華さんの勘はいつも正しいからな」


「自分の娘、声明通りなら幼い子が三日も帰って来ないのに行方不明届も出さずにいる理由……」


「あまり信じたいとは思わないけど、自分の子供に対する愛情を無くして誘拐されたことに満足をしている……とか? そんな親が居るはずないよね」


「居るよ」


 自分で告げた理由を自分で否定した八重彦に対してまたしても断定するように言い放った華はこう続けた。


「覚えていないとは言わせないよ。自らの保身のために実の娘を死んだことにした父親の事を」


津ヶ原幹治つがはらもとはる


 忘れたつもりでいたその男の名前は八重彦の記憶の中から詰まることなく出てきた。


 警察の副総監とも太いパイプで繋がりを持ち、自らの汚職も家族の不祥事もたった一声できれいさっぱり隠蔽する政治家こそ津ヶ原幹治という男であり、とある夏の日に彼の娘が起こし隠蔽したはずの殺人事件を華の妹の手により白日の下に晒した際、事件の真相が表沙汰になる前に殺人犯としての証拠が露呈した娘が死亡したと戸籍を改ざんし、事件を闇へと仕舞い込み自身は一人娘を若くして失った哀れな父親として政治利用していた。


「あんな父親がいるくらいだから八重が思うような思想を抱いた親が存在していても不思議ではないでしょう?」


「もしも、本当に被害者家族が僕の思うような親だったとして……被害者の子はそんな親の所に帰りたいのかな?」


「さあね。それは本人が考える事だろうし、見つかってもいないのにもしもの話をしたって仕方なくない?」


「そうだよね」


「それじゃあ、まずは志湧しわけ管轄内の役所で幼稚園にも保育園にも通っていない小児の現住所集めてしらみつぶしに家を訪問するとしましょうか」


「それはまた随分と気が遠くなる作業だね」


「泣き言は言っていられないでしょ。さっさと車出して」


「了解」


 華たちが所属している管轄外での操作になるので本来であればきちんと上層部に報告をした上で動くべき案件ではあるのだが、上層部にも無断で動いている今の二人を止められるものは居なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る