ヘリオスナイトの帰還・竜機兵戦

エレナとサマエル、そして行商の親子は既に遺跡の最深部に到達していた。

サマエルの魔力マッピングによる効率的な罠の回避と、エレナの炎魔法による

罠の破壊によりかなりの侵入者を阻む機構を無効化できたためである。


サマエルが、顎の骨を動かしながらエレナたちに伝える。

「ここを超えれば宝の間だぞ 落ちないように注意しろ」

彼らの目の前には大きな扉と2m程度の深い穴が開いていた。


ホープとミライたちはエレナとサマエルの探索者としての力に驚嘆した。

「す すげえ…本当に一個も罠にかからずにここまで来ちまったよ…」

「あの魔物の骨の力 本物みたい…」


エレナはそんな声を気にも留めず、身体強化の魔法を自分にかけていた。

「身体強化魔法を使うぞ 来い」

ホープにも身体強化をかける。ミライには負荷を考えて魔法はかけず、

ホープに抱きかかえてもらうことにした。


まずはエレナが駆け出して、跳躍をする。

「ふっ!!」

「さあ 来てみろ」

エレナはサマエルを背負っていることをものともせず向こう側に降りてみせた。


ホープは力いっぱいしゃがんでからジャンプするが、あと少し飛距離が足りない。

とっさにミライを投げて向こう岸に届けるが、ホープ自身は落ちて行く。

「おわあああああああっ!!!!」

エレナはすぐさまリュックの中に入っていたロープを投げ、

ホープにその端を掴ませてみせた。


「大丈夫か?」

「なんとかね。」

エレナはロープを引き上げ、ホープも何とか岸に上がってみせた。


最深部の扉の前にたった三人は中からの強い魔力を感じ、緊張感に包まれていた。

「おそらくだが、外で噂されているようにここからは宝の番人、

竜機兵と戦うことになる。やりあう覚悟はできているな?」

ホープは汗をかきながら、覚悟を決めた。

「…やるしかないか」


サマエルが動いた。

「魔力扉のようだな、各々魔力を流し込まないと開かんようだ」

エレナは扉に手をつくと、二人にも手を添えるよう促す。

「手をついて、念じてくれ」

「…宝を手に入れて、村を、家を取り戻す…」

「お母さんとの思い出の場所を、取り戻す!」

『………』

エレナの脳裏に、一瞬一人の少女が浮かぶ。

しかしそれは僅かな感傷と共にすぐに消えた。

『サマエルの 体を……』


三人の魔力と意思に反応して、扉は開かれた。


宝の間の中には絢爛豪華な宝石や飾り、魔道具などが散乱していた。

「ざ、財宝がこんなにあるとは…!」

「すごい!すごいよ父ちゃん!!」

ホープとミライはその財宝に狂喜乱舞している。しかし、

エレナたちは既に宝の番人の存在に注意を向かわせていた。


ずしん、ずしんと壁の向こうから音がする。

「…」

「油断するなよエレナ」


その音は、ずしん、ずしん、ずしんずしんずしんと次第に早くなって

こちらに向かって来る。


「竜機兵はもう来ている」


そのとき、巨大な宝の番人、竜機兵が宝の間の壁をぶち割って現れた!!


ミライは恐怖と驚きで叫び声をあげる。

「うわあああ!!」

サマエルはリュックから這い出ると竜機兵を眺め、感心した様子で言葉を漏らす。

「ほう、これが竜機兵か…大した出来だなあ」


エレナは魔法の構えを取り、ホープに討伐を呼びかける。

「倒すぞ」

「や、やっぱり無理だ!!」

そのとき、ホープは震えながらおじけづき降参の声を上げた。

「父ちゃん!?」

サマエルも呆れたように問いかける。

「怖気づいたか?」

「…」


「人ぐらいの大きさだろうとなんとなく思ってたんだ…だがこれじゃまるで

巨龍じゃないか!さすがにこれは無理だよ!」

「お、俺は一度も…ドラゴンを倒したことなんかないんだよ!」

「戦争に駆り出された時だって、 た ただ逃げてただけなんだ~~~!!」

ホープの情けの無い声が遺跡の中にこだまする。

そんな中、エレナは一人魔力の気を練り始めたが、やがて肩を震わせてうなだれ始めた。


「……ならホープさん、一分だけでいい」

「一分だけ奴をひきつけられないか?」

「私の特大魔法があれば 一撃でやつを倒せるぞ」


そのいざないにホープも驚く。

「一撃で!?そ そんなことが…」


エレナは自嘲気味に説明を続ける。

「というより…」

「自分でももう…大きな魔法の魔力の制御が出来なくてね…」


「炎を使いすぎた時期があったからか 実はほとんど調整が出来ないんだ…

さっきまでの軽い魔法は手の先の力だけで出してたんだよ」



「このレベルを倒す焔の魔法はもう一年は使ってない 魔力自体は十分だと思うが…」

エレナは思わずしゃがみこんだ。反動がエレナの身体中を駆け回る。

「あの 戦争の 反動 で…な…」


ホープはその姿を見てある可能性を脳裏によぎらせる。

『この物凄い魔力 それに制御できない程のバックラッシュ…』

『この子まさか あの噂の…』


ホープは決意を固めたように剣を抜いた。

「………わかった、やるよ…!」

(俺が今ここで一分も耐えられなかったら、…俺は 自分を許せない!)


「一分でいいんだな!!」

そう言いながらホープは竜機兵に向かって駆け出した。

「よーし、来いよ竜機兵!俺が相手をしてやる!!」


ミライが不安そうに父親のことを見つめる。

「…でも、本当に一分も回避できるの…?」

戦場を知っていたエレナは、意外にもさほどホープを心配していなかった。

「心配はいらない、君のお父さんは生きて帰ってきたんだ」

「魔物との大戦争から、自分の力で帰ってきたんだ」


ホープが攻撃をひきつけながら叫ぶ。

「そうだ…俺は帰るんだ…!」

エレナが笑った。

「回避スキルは…一級のはずだ」


ホープが華麗な対捌きで連続回避を披露した!

「家族のもとに帰るために!」

「避けてきたんだ!!」

「もう無理だ まだかーーーっ!?」


ミライがその姿を見てエレナにサポートを申し出る。

「お、お姉ちゃん!私もなにかしたい!!私もあれを倒すために何か…!!」


「なら一緒に撃ってみるか?」

「! うん!!!」

エレナの魔力でエレナとミライの髪が揺れる。やがてそこには橙の炎の魔力が光り始めた。


『今まで戦いを捨てて生きようとしてきたが やっぱり私は魔法とは縁が切れないらしい』

「ちょうどいい…なら」

「詠唱破棄もやめて……ほんとの一から やり直すとするか!」


エレナは、炎魔法の基本中の基本、第一の詠唱を始めた。

「我らに炎の力を与えしプロメテウスよ、我そなたとの誓いに従いここに炎を

顕現させんとす 起こす炎は…」


右の手のひらに大きな炎の玉が出現し、エレナはそれを一気に竜機兵の方に投げつけた!

「プロメテウスの炎!!! 業火球!!!」


竜機兵はそれを受けると倒れ込み、そのまま動かなくなった。

しばらくの沈黙の後、ホープとミライは歓声を上げ始める。

「やった…!」

「やっった…」」

「「やったぞーーー!!」」


エレナとサマエルは竜機兵の原動力を探し出す。予想外にもそれは、

右足の真ん中あたりにくっつくようにはめこまれていた。


「エレナ 見つけたぞ」

ほんの少し、色味と材質の違う大き目の骨があった。

「これが?」

「ああ 竜機兵の動力源だ」

見たところ、それは魔物の骨であるようだった。


「おそらくここに竜機兵を稼働させるプログラムと魔力が全て込められている」

エレナはその動力源の魔物の骨を触ってある違和感に気付いた。

「…新しい…?」

「なんだと?」

「この…骨…?自体は相当古いようだが 刻まれた魔力構成と方法は…」

サマエルも魔力視をすると低い声で唸った。

「なるほどやはり…かなり最新のものだな…」

「藪をつついたら蛇が出たか…」


エレナはことの大きさに直面して思わずニヤリと笑ってしまった。

「戦勝祭に乗じて 軍は何か企てているらしいや」

「やれやれ うかつに触りにくくなったぞ これは…」


その時、竜機兵が動力源を引き抜かれたにもかかわらず動き出した。


ミライたちは驚き走って逃げだした。

「なんだ!?」

「また動いたーーーっ!!」

機能停止した竜機兵は突如再起動し、猛然と天井を破壊し始める。

「セーフガードまでついているのか…これをつくったやつも大した魔術師だな」

「サマエル!」

「うむ!!」

「脱出するぞ!!」


ホープは驚きエレナに問う。

「どうやって!?」

「こいつを使う!!」


エレナはサマエルに呼びかけながら冷や汗をかいた。

「あの落ちて来る落盤を素材に使う!!足場を作れるか!?」

「やってみよう」

エレナとサマエルの魔力が、がれき中に広まり始めた………。


10

民間人たちと話し込む珍しいライサンダー少佐の姿を迎えながら、

部下のレイテ少尉が話しかける。

「どうでしたか?」

「あまり確証のない情報だった…この遺跡の中に入ったらしいとしか…」

「でも 少佐も物好きですね…」

「軍が隠したがる情報を わざわざご自分から探しにいくと言い出すなんて…」

太陽のヘリオスナイトたちが改造された子供であったという計画の噂を、

軍内部も良く思っていないにもかかわらず、ライサンダーは聞き込みを続ける。

そこにはライサンダーなりの熱意と言うものがあった。

「しかし、あのとき俺を…お前たちを助けてくれたのが何者なのか、

俺はなんとしても知りたいんだ」


そのとき、遺跡がすごい勢いで崩落を始めた。

レイテとライサンダーは驚きの表情でそれを見つめる。

「「…!?」」


遺跡広場に集まっていた退役兵たちも口々にその様子を叫ぶ。

「遺跡が崩れてるぞ!」

「竜機兵と・・・なんだあれは!?」

「ドラゴンの頭!?」


サマエルは自らの魔力操作によってがれきをシェルターのようにして

竜の頭を作り、エレナたちをその口の中に入れて身を守りながら

竜の頭の塔のようなものを形成し、竜機兵との最後の戦いに躍り出た。

「ウム、即席だがそれらしくなったな」

エレナは再び暖まりきった肩に特大魔法の準備をして、ホープたちに語りかける。

「ホープ!ミライ!あとのことは任せるぞ!」

「ええ!?」

「うん!!」

ホープは驚きの声を上げ、未来は元気よくその姿を目に焼き付けようとする。


エレナの背後に魔方陣が展開され、背中に光を背負ったような姿になったエレナは、

右手首からも魔方陣を出し特大の炎魔法を繰り出した!!

プロメテウスの炎!!!


レイテが声をこぼした。

「メビウスの輪…!」

ライサンダーは小さく叫ぶ。

「間違いない……あれは 太陽神のみ使い…ヘリオスナイト!!」

「人魔大戦末期に突如として現れた 少年少女の姿をした恐るべき魔法使い!!」


「炎をの力をわが手に!!」

プロメテウスの炎 極豪炎!!!!


「ギエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

竜機兵の魔力回路が焼き切れ音を上げ、甲高い叫び声のように聞こえる。

竜機兵は叫び声を上げながらバラバラになり、ついに再び斃れた……。


エレナは帽子を深くかぶり直し、未来たちに別れの挨拶をした。

「じゃあ、私はここで。あまり目立ちたくないんでね」

「…また逢える?」

ミライのそんな言葉に、優しい表情でエレナは答える。

「魔力の導きがあれば。」


群衆たちが駆け寄って来て、未来とホープのことを見つけ歓声を上げた

「いた!あの親子だ!!いよいよ攻略者が現れたぞーー!!!」

ミライとホープは大いに喜び、財宝を彼らと分け合って故郷に還ったという。

「え!え!!なんかわかんないけどやったーーーー!!!」

ホープは涙ぐみながらミライを抱きしめ呟いた。

「ありがとう…み使い…!!」


11

エレナとサマエルは森の中の道を歩きながら動力源の骨を持って眺める。

「無事に手に入れたな 竜機兵の動力源…これがあれば私の体を

再び作ることも叶いそうだな」

旅の目的に近づいた喜びをにじませるサマエルに、エレナが答える。

「ああ 命の再構成に近い魔法だし 莫大な魔力がいるだろうが…」

「必ずやってやるさ この世界を変えるかもしれない実験だからな…」

その表情には静かな決意が浮かんでいた。


サマエルは骨を見ながら考え込む。

「しかし もしこれを集めるのならば 竜機兵を作った者たちが

黙ってはいないかもしれぬな…」

「遺跡の古代兵器に見せかけて、自立稼働の兵器を

極秘に実験している集団が一体何者なのか…」


「いいさ…王都で戦争の準備をしてるやつらが何者か 確かめてやろうじゃないか」

「そして お前を生き返らせてやるさ 瘴気の必要ない 破壊を司らない魔物に」

エレナが強い挑戦心をあらわにしながらそう答える

エレナのいきいきとした表情にサマエルはようやく安堵して返事をした。

サマエル「ああ よろしく頼むぞ エレナ」


12

荒野を歩き続けるエレナを、サマエルが呼び止めた。

「なあ お前…魔法使いか?」

ボロボロの軍装のエレナは驚きサマエルに向き直る。

「なんだ!?お前…生きてるのか?」

サマエルは疲れた声で答える。

「ああ 魂だけはなんとかな…尤ももうほとんど動けないし 魔力も落ちたが…」

「やっと誰かに見つけてもらえた 私が生きていることによく気付いてくれたな」

エレナは警戒しながらも驚いた表情で問うた。

「敵意は無いのか…?!破壊衝動は?!」

「瘴気を使う肉体自体が無いからな…もはや戦争への執着もない」


エレナは安堵の為か、微かに涙をにじませる。

「…………」

「なんだよ…驚かせやがって…」


一陣の風が吹き、サマエルはエレナに質問をした。

「しばらく前から随分静かになった どうやら戦争は終わったらしい」

「それに ずいぶんお前もボロボロじゃないか…」

「休息をとるついでに 少し私と話していかないか? 色々と情報が知りたいんだ

今の世界のことも お前のことも…」


エレナは吹いていく風を一瞥しながらこう答えた。

「まあ… 退屈しのぎにはなるかもな…」


荒野の空に、鈍色の雲が流れていく。


エレナとサマエルの冒険は、ここから始まっていた・・・・・・・・・・・・・。




おわり

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プロメテウスの炎・王都動乱編 瑞雲日景 @hotarubi728

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