ヘリオスナイトの帰還・遺跡攻略
5
鎧や戦闘装備を着た男たちが、遺跡の周りに集会所を形成していた。
「遺跡内部の情報!遺跡の内部の情報が知りたいやつはいるか!!」
「地図売ってるよーー!魔導鎧の弱点の情報は50ディラだ!」
「俺と組む奴いないかーー!でけえ剣使えるぞ!」
遺跡の前の広場には露店や机がこれでもかと並べられて、兵士たちが
行き交う。彼らは情報交換や仲間探しに明け暮れ、遺跡の攻略を狙っていた…。
「おお…これが王国の遺跡広場…ここはここでにぎわっているな」
サマエルは想像以上の人の集まりに感嘆の声を漏らした。
エレナも息を整え、久しぶりに集中して辺りの魔力を感じ取った。
同じく魔力探知をしていたサマエルは、魔力の流れからある違和感に気付く。
「しかし……」
「どうも怪我をしているものが多いらしい」
彼らの魔力の流れは何処かが痛んでいるか欠損しているものが目立つ。
それはおそらく負傷して軍を離れた退役兵らしかった。
「政府は財政難で戦後かなりの兵士をクビにしたからな……」
十一年の対魔物戦争は、勝利したことでも何の獲得報酬もなく、軍はひたすら
出費のかさむ大所帯を一刻も早く切り崩さねばならなかった。そこで、
急場しのぎで宝物庫である遺跡を解放したというのは知られているところである。
「ガス抜きにはちょうどいいということだろうかな…」
サマエルは溜息を洩らしながらも、子供くらいの小さな魔力反応を探し続ける。
「!いたぞ!あの階段の上だ!」
行商の少女は既に遺跡の入り口にいた。運の悪いことに止める者は誰もおらず、
このままでは少女は遺跡の中の罠に襲われてしまう…!
「なんてすばしっこさ…急ぐぞ!」
エレナはそういうと帽子を直し、走り出す。
「待て」
大きな鎧の男がエレナを制止した。鎧の男は背中に斧を背負い、
エレナを鎧の隙間から覗き見ていた。
鎧の男は静かな声で目の前に現れた『無謀な少女』を阻む。
「魔法使いのようだが 杖も持たず大荷物で…」
「単身で遺跡に挑むつもりか?やめておけ…ここに入るにはお前は少し物を
知らなすぎる」
エレナの頬に冷や汗が流れた。鎧の男は殺気を放ち始め、
明らかにエレナをこの場から追い出させようとしている。
その様子に他の探索者たちも気づき始め、彼らは驚きと恐怖でざわめいた。
「おい…山のリョウビが止めてるぞ…」
「一人で魔物10体を相手にしたという あのリョウビか?!」
リョウビと呼ばれた鎧の男は腰を深く沈め、斧に手を伸ばそうとする。
「このまま帰るか…それとも 痛い目を見て立ち去るか…?」
男たちは一斉にその場から離れようとして雪崩を打ち始めた
「まずい!リョウビがやるって…!!」
「ソニックブレードが飛ぶぞ!逃げろ!!」
エレナは不安をぬぐう様ににやりと笑みを浮かべると、
静謐な構えを取って魔力を練り始めた。
「なら…相手になってもいい……」
二人の殺気と魔力がぶつかり合い、衝撃波が周囲にびりびりと飛び始め、風も巻き起こる。
『な なんて魔力の気なんだ…!!!』
魔法使いの初老の兵士は魔力に押され、熱波でローブの端が僅かに焦げる。
『炎の魔力…い 一歩も動けねえ!!熱波がすげえ!』
戦士たちもエレナの魔力量に驚き、戦いの気迫を感じ始めた。
『炎熱の陣か…あいつの魔力 まだまるで戦場にいるみたいじゃねえか…』
十秒ほどの闘気の押し合いの末、先に構えを解いたのはリョウビの方だった。
「ふ……」
ざ、と音を立ててリョウビの足が警戒を解く。
「どうやら物を知らないのは俺の方だったらしい」
リョウビは気さくな笑い声をあげると、エレナの出自を察し始めた。
「お前さんも あの戦争返りだろう」
エレナも軽く皮肉めいて笑うと、けして怒らず答えた。
「人手不足でね」
そのやりとりに周囲の男たちは驚く。すぐさま打ち解けてしまったリョウビは
エレナのことを認め、入口への道からどいた。
「随伴は必要ないな 気を付けて」
エレナはリュックを背負い直して、遺跡の階段を駆け上がった。
「ありがとよっ!!」
サマエルはエレナの魔力量に感心した。
「衰えていないな」
エレナは少し悲しそうに、落ち着いた声でこう言った。
「元には戻らないさ…」
遺跡の扉が開く。その奥からは静かな風が吹き、薄暗い遺跡の中に
二人は入って行った…。
6
遺跡に入ったサマエルとエレナは、まずその不可思議な造りに驚いた。
「奇妙な明るさだな、光がどこからともなく放たれている」
サマエルは光の魔法が応用されていることには気づいたが、
その精巧な仕掛けまでは想像もつかなかった。
エレナは傍の壁を触りながら、ひんやりとした触感から材質を考えようとする。
「壁もどこかやわらかい…こんな石はことがない」
しかし、今は急ぐべきことがある。エレナとサマエルは魔力の動きに集中し始めた。
「さて…それじゃ さっきの子供を見つけなきゃな」
「サマエル 魔力探知だ」
「わかった 罠も含めて捜索するぞ」
「ムゥン…魔導マッピング!!!」
サマエルの、骨になったことで拡大した魔力の認知能力によって、
遺跡全体の魔力の動きをサマエルは地図のように頭の中に描き出し始めた。
徐々にその半径は20m、30m、40m、と及び、ついに50mに達した辺りで
サマエルは一度探知をやめた。
「フム 見つかったぞ」
「どこだ!」
サマエルは少し言いよどんだ後に答えた。
「私たちの…20メートルほど先の角を曲がってすぐの罠のところだ」
「父ちゃん…父ちゃん~」
少女が軽装の父親に抱きつきながら半泣きになっている。
「す すまない 娘よ~…」
父親は壁の罠に四肢を捕られ、寝転がった姿勢から動けなくなっていた。
「……」
「本当に大丈夫なのか…?」
サマエルは彼らのあまりの弱さに困惑の声を漏らした。
「いや〜助かったよ、世話をかけたな!俺の名前はホープだ」
助けられた父親は茶色の髪の頭を掻き、陽気に笑う。
「娘のミライです」
さっきまで慌てふためいていた少女も冷静さを取り戻し、
その小さな体を折り曲げ挨拶をした。
「王都に仕事を探しに来たんだけど全然なくて、行商も振るわなくてね。
いっそ遺跡の宝でも探しに行こうかと思ったらこのザマだ。君が来なかったら
本当にだめになってたところだったね…重ねて礼を言うよ」
エレナはあまりにあっけらかんとした親子の空気に呆れつつも、
冷静な声でこう告げる。
「…それじゃあ、戻りますよ」
「え!?」
現実を突きつけるのは苦しいことだが、エレナは安全のために彼らを制止する。
「あんたたちもわかっただろう、遺跡はとても危険な場所だ。
一人の魔法使いとして これ以上先に進ませるわけにはいかない」
ミライがエレナの静止に割って入って大きな声で叫んだ。
「あっあの!そういうわけにはいかないんです!」
ホープも背中の剣を揺らしながら身を乗り出して同調する。
「君は、魔法使いなんだろう!?俺たちも連れて行ってくれ!」
「私達…お母さんの村を再興したいんです!」
小さな少女のその言葉に、エレナの表情がわずかに変わった。
力強く動機を語った親子たちは、細かな身の上を話し始めた。
「私達の南にある村は魔物の襲撃にあって崩壊しました、今は誰も残っていません」
「それでも、病弱だった妻とミライが育ったあの村が 俺達にとっては唯一の
帰る場所なんだ 金があれば あそこに戻って街を作り直すことが出来る…」
ミライとホープは只の出稼ぎではなく、並々ならぬ覚悟をして故郷を出て来たのだ。
エレナの思考に一瞬の迷いが出た。
二人は深く頭を下げ、エレナに向かって両手を伸ばす。
「お願いします魔法使いさん!私達と遺跡攻略してください!」
しかし、さすがのエレナでもためらう程には二人は弱かった。
「事情は分かったが…危険すぎる!!」
父親は向き直ってミライに手を添えると、悲痛な表情でエレナに語る。
「ミライのことは俺が守る!全然強くもない俺だが…それだけは必ず!」
ミライも涙を浮かべてエレナに動向を頼み込む。
「お願いします!お姉ちゃん!!」
「…」
サマエルが、エレナにだけ聴こえるようにこっそりと話しかけた。
「なあエレナ…今の間に半径1kmほど遺跡の探査を済ませたのだが」
「私はもう最深部の宝の間までの最短経路を把握したぞ 罠もきっちり
場所をマークしてある 私がナビをしてやるから ここはひとつ、
つれていってやったらどうだ…?」
エレナはそれを聴くと数秒悩んだ後ため息をつき、彼らの願いを了承した。
「…わかった、ついてきてもいい」
わっと喜びの声を上げる二人。
「本当ですか!?」
「やったなミライ!」
しかし、エレナは簡単に宝を渡すだけではなかった。
「だが」
「宝の番人とやらと戦うときは、力を貸してもらうぞ」
「何もしないものに宝は渡せないからな…」
「あ、ああ…分かったよ…」
緊張しながらも、ホープはその条件を飲む。
「それからこれは一種の魔道具だ」
エレナはそういうとリュックの中のサマエルを二人に見せる。
サマエルの空洞の目が彼らを見つめ返した。
「なんだこれ 竜の…骨…?」
「こいつは魔力探知をすることができる」
「邪魔に見えるが安全にもなる、だからあまり気にしないでくれ」
サマエルはついおかしくなって声を漏らした。
「この私を道具扱いできるのはお前だけだな、エレナ」
「しゃべった!!」
「ひぃい!!」
「…まあ、お前にだけは道具扱いされても文句は言わんがな」
エレナは呆れ声を漏らしサマエルをせっついた。
「いいからさっさと魔力探知をしてくれ」
「わかっている、魔導マッピング!!」
サマエルは、とうとうこの遺跡の全ての魔力情報を把握した。
そして三人を安全な道に導いていく…。
「こっちだ、罠も少なく最深部まで比較的安全につながっている」
エレナは手を振って、二人がついてくるように呼び掛けた。
「行くぞ」
「ああ…」
7
古傷を抱えた退役兵たちが、酒を飲みながら先ほどの騒ぎのことを話していた。
「あ〜…さっきの魔法使い、どうなったろうな」
「リョウビに止められたやつか?すごい魔力量だったな」
細身の男は槍を持った男の話に感想を返し、酒瓶をテーブルにドンと置いた。
魔法剣士の若い男は顎に手を添え、エレナの素性について考えこんでいる。
「あれだけのパワーと胆力…並の魔法使いなんか目じゃねえ…」
槍の男が不意にさっきの光景に感じた違和感をこぼす。
「しかし、あれだけの強さにしては若すぎやしないかね」
細身の男は、はっと何かを思い出したようにしゃべりだす。
「…もしかして、あれじゃねえか?」
「なに?」
「『太陽計画』だよ」
「おい!それって…!!」
魔法使いの男が驚いてその話を止めようとする。
槍の男は半分酒に酔いながら答えた
「そんなの都市伝説のたぐいだろ あの戦場の天使がが人間だったわけねえよ」
細身の男は腰の二つの剣を揺らしながら、身を乗り出して二人に話返す。
「だっておかしいと思わねえか!?実際に戦場で み使いの子供が死んでたのを
見た兵士だっているんだぜ あれだけの魔力を持ったみ使いを戦争に合わせて
送り込めるのもそのみ使いたちが全部子供だったのも きっと、何かの…」
男が話を止めたのは、正規の軍人が自分たちに急に近づきながら現れたからだった。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか。」
「ぐ、軍人!?」
正規兵が急に退役兵たちの集まる場に現れるのは珍しい。
彼らはおどろき目の前の軍の人間を警戒しだした。
ライサンダーは右手を軽く上げ彼らの警戒を解こうとする。
「今は私用だ。私もヘリオスのみ使いに助けられらことがあって、
その魔力の持ち主を調査しに来たのだが…」
「私はライサンダー少佐。王都警備隊所属の剣士だ」
その名乗りを上げる姿は緊張しても見えたし、勇気に満ちているようにも見えた。
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