第27話「入部させてください」③

「1年A組の日下部万莉くさかべまりです」


蒼太と美月の前に座る女子生徒は、そう名乗るとぺこりと礼儀正しく頭を下げた。


「探偵部に入部希望ってことでいいんだね?」


万莉は蒼太の瞳をまっすぐ見つめながらこくんと頷いた。


「はい……昔から推理小説が好きで、ずっと探偵に憧れがありました」


そう言うと、薄っすらと頬を染めながら視線を落とした。

その様子を見ていた蒼太がそっと微笑みを浮かべる。


「それじゃあ、この入部試験解いてもらえるかな」


問題用紙を差し出すと、万莉は真剣な表情で用紙をじっと見つめた。

そして、数分が経つと柔らかい表情を浮かべながらそっと顔を上げた。


「……解けました」


「お、早いね。それじゃあ、万莉ちゃんの答えを聞かせてくれるかい?」


万莉は一呼吸置いてから、ゆっくりと口を開いた。


「犯人は……Bです」


蒼太へまっすぐ向ける視線に迷いはなかった。


「……理由を聞かせてくれる?」


蒼太も万莉の瞳をまっすぐに見つめ返す。


「犯人の証言が”すべて嘘”ということは、他の証言が“すべて正”でなくてはなりません。その条件が成立するのはBが犯人の時だけです」


万莉の答えに、美月がそっと息を呑んだ。

資料を持つ手に自然と力が入る。


「それと……ここまで考える必要はないかもしれませんが、CはBが書斎から出たところは見ていますが、ところを見たとは言ってません」


蒼太の眉がぴくりと動いた。


「Dも、玄関先でCに会ったとは言ってますが……その他に誰もいなかったとは言っていない。

犯人以外は真実を話しているのが条件ですが、とも書かれてません」


万莉がスカートの上に置いた拳をぎゅっと握りしめる。


「Bは書斎から出たあとも家に滞在していて、Dの帰宅後に犯行に及んだのではないでしょうか……」


万莉のまっすぐな瞳が、蒼太を捉える。


視線を受けた蒼太がにっこりと微笑みを浮かべた。


「……ご名答!完璧な推理だね」


「日下部さん、すごいっ!!」


蒼太の言葉に万莉よりも先に美月が瞳を輝かせ、興奮気味に手を叩いた。


「良かった……正直自信はあったんですけど、自分の推理を人に話すのは初めてで……緊張するものですね」


万莉は、再び頬を染めながらそっと微笑みを浮かべた。


「いや~、完璧な解答で驚いたよ。Bが実は帰ってなかったってところまで見抜かれるとはね」


蒼太は腕組みをしながら感心するように頷いた。


「部長、日下部さんは探偵部に……」


美月がじっと蒼太の瞳を見つめる。


「もちろん!大歓迎だよ」


蒼太がにこりと微笑んだ。


「ありがとうございます……!」


万莉はほっと胸を撫で下ろすと、こわばっていた表情を和らげた。


「日下部さん!これからよろしくね」


美月が満面の笑みを万莉に向けた。


「万莉でいいよ、私も美月ちゃんって呼んでいい?」


「もちろん!よろしくね、万莉ちゃん!」


二人のやり取りを蒼太は微笑ましそうに見つめていた。


「いや〜、僕も安心したよ。これで、来年の探偵部も安泰だね」


「あ、あの……一つお願いがあるんです」


「ん?何かな?」


万莉は小さく息を吐くと、遠慮がちに二人に視線を向けた。


「入部は……来年の4月からにしてもらえませんか?」


蒼太と美月が目を丸くする。


「構わないけど……どうして?」


「実は、書店でバイトをしてるんですが……3月までは続けたいんです」


「そうなんだ、それは全然問題ないよ。一緒に活動できないまま卒業なのは残念だけど」


万莉は、蒼太の言葉にふと笑みを浮かべると「すみません」と軽く頭を下げた。

彼女の笑みの理由が、蒼太は少しだけ気になった。


「入部は来年だけど、いつでも遊びに来てね」


「はい、またお邪魔させていただきます」


「万莉ちゃん、待ってるね!」


万莉は蒼太と美月ににこりと微笑むと、頭を下げて部室を後にした。


パタンとドアが閉まり、蒼太と美月は同時にふぅと息を吐いた。


「良い子が入ってくれて良かったね〜」


蒼太が笑うと美月も満面の笑みを返した。


「はい!推理もすごかったし、本当に心強いです…!来年の探偵部も楽しみになりました」


美月は、連日の不安が一気に吹き飛んでいた。

しかし、そう言った自分の言葉に胸の奥がじわりと痛んだ。


――来年の探偵部。


「それでも……部長が卒業しちゃうのは……」


美月はぽつりとつぶやいた。


「やっぱり寂しいです」


ちらりと蒼太に視線を向けると、優しい顔でこちらを見つめていた。





部室のドアをそっと閉め、万莉は小さく息を吐いた。


「……やっと、入部できた」


廊下でひとり、ぐっと背筋を伸ばす。


「あんな良い感じの二人、邪魔しちゃ悪いもんね」


本当は、入学してすぐに探偵部を覗きに行っていた。


そこで見かけたあの二人の様子を今でも覚えている。


「探偵部なのに、案外鈍いのね」


ドア越しに聞こえてくる楽しげな会話にふと笑みを溢すと、万莉は静かにその場を後にした。



**「入部させてください」完**

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