第26話「入部させてください」②
ある人気小説家が自宅で殺害される事件がありました。
事件当日、被害者は家から出ておらず、四人の人物が順番に自宅を訪問していました。
この四人の中の一人が犯人です。
なお、証言の中で“犯人だけがすべて嘘”をついていることがわかっています。
【問題】
この四人のうち、
すべての証言が嘘である “犯人” は誰でしょうか?
Aさんの証言:
私が先生の家に到着した時、先生以外に誰もいませんでした。
用件を済ませて帰ろうとしたところ、訪問しに来たBさんと玄関先で会いました。
Bさんが家の中に入っていくのを見て、私はそのまま家を後にしています。
Bさんの証言:
私が先生の家に到着した時、先生の書斎にはAさんがいました。
その後、Aさんが書斎から出ていくのを見ています。
用件を済ませて帰ろうとしたところ、訪問しに来たCさんと玄関先で会いました。
Cさんが家の中に入っていくのを見ています。
Cさんの証言:
私が先生の家に到着した時、先生の書斎にはBさんがいました。
その後、Bさんが書斎から出ていくのを見ています。
用件を済ませて帰る時、先生の家を出たところでDさんと会いました。
Dさんが家の中に入っていくのを見ています。
Dさんの証言:
私が先生の家に到着した時、先生の家から出てきたCさんと会いました。
私が帰る時、先生は生きていました。
「答えを聞かせてもらえるかな?」
問題用紙を睨むように見つめていた榎本の肩がびくりと跳ねる。
「えっと……D、ですかね?」
大きな体にはそぐわない弱々しい声でつぶやいた。
「どうしてだと思う?」
「最後に来た人がやっぱり怪しいし、あと犯人は嘘をついてるって書いてあるんで……生きてたっていうのが嘘なのかなと思って……」
蒼太をちらりと見ると、すぐさま視線を落とした。
何か悟られたくないことがあるのか、蒼太とは中々視線が合わなかった。
「問題は『犯人だけがすべて嘘をついている』って条件だから、Dが犯人なら、Dの他の証言も全部噓でないといけない」
榎本が無言で頷く。
「だから、他の人物の証言とは食い違うはずなんだ。だけど、Cの『帰りに家を出たところでDと会った』とDの『家から出てきたCと会った』は嚙み合ってるよね?」
蒼太の話に、榎本が小さくため息をつく。
苛立っているのか、かすかに足が揺れている。
榎本の態度に美月はそっと眉を寄せた。
――本当に、探偵部に興味があるの?
ふとよぎった考えを振り払うように、美月は背筋を正した。
「そうなると、犯人は誰だと思う?」
「う~ん……Aですかね……?」
「どうして?」
「……Bと違うことを言ってるので」
どこか投げやりな返事に、蒼太の目付きがわずかに鋭くなる。
「そうだね。でもBとCでも証言が食い違うところがあるよね?」
「……」
榎本は眉間にしわを寄せながら、口をへの字にさせた。
彼の態度を見つめていた蒼太は、小さく息を吐きながらゆっくりと口を開いた。
「残念だけど、不合格だ」
「えっ……!」
榎本は蒼太の言葉に目を見開くと、ちらりと美月の方へと視線を向けた。
視線の先の美月と目が合い、唇をぎゅっと噛み締める。
「こ、これから、頑張りますから!」
慌てた様子で、榎本が必死に食い下がる。
「部長っ……」
その姿を見ていた美月は、何かを訴えるように蒼太へ視線を向けた。
「……ごめんね」
美月の期待を汲んでもなお、蒼太の言葉に迷いはなかった。
その後、榎本は肩を落として探偵部の部室を去って行った。
ドアが閉まると、部室にわずかな静寂が広がった。
「……部長、ちょっと厳しすぎませんか?」
眉をひそめる美月に、蒼太はいつもの笑みを浮かべた。
「美月ちゃん、焦る気持ちはわかるけど……
探偵部のことを思うなら、部員選びは慎重になった方がいいよ」
蒼太は、まっすぐ美月の方を見つめた。
「彼、明らかにおかしかったでしょ?」
美月は言葉を詰まらせた。
部員集めに躍起になっていたのかもしれない。
違和感に気付いていながら目を逸らそうとしていた点はいくつもあった。
「冷やかし、だったんでしょうか……」
美月がゆっくりと視線を落とす。
「彼の目的は、美月ちゃんだよ」
「え?」
蒼太の言葉に美月は目を丸くした。
「実は、前にもいたんだよね。美月ちゃんが可愛いからって入ろうとしてくる人」
深いため息をつく蒼太の隣で、美月は口をぱくぱくと動かすだけで、言葉が出てこなかった。
「だから、こういう時のために試験問題を作っておいたんだ」
美月の顔が一気に赤く染まる。
「美月ちゃんは自覚なさそうだから、気を付けてね」
蒼太がにこりと微笑みを浮かべた。
翌日の昼休み、美月は廊下の壁に張り付けた部員募集のチラシを剥がして回っていた。
昨日のことを思い出すと、頬が勝手に緩んでしまう。
ずっと、部長が守ってくれてたなんて――
剥がしたチラシを見て、美月はそっと微笑みを浮かべた。
「あのー……」
美月の肩が飛び跳ねる。
声がした方へと勢いよく視線を向けた。
前下がりのショートヘアにメガネをかけた女子生徒が、目を見開きながらこちらを向いていた。
「探偵部の部員募集って……終わっちゃいましたか?」
女子生徒のその言葉に、美月も大きく目を見開いた。
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