第13話「脅迫状が届きました」③

蒼太のスマホが震えた。

着信画面には、“佐々木理恵ささきりえ”の文字が表示されている。


『桐山先輩、南先輩が会いに行った人がわかりました』


「ありがとう、理恵ちゃん。助かったよ」


蒼太の通話相手は、2年生の佐々木理恵。

以前、探偵部に相談があった事件のとなった生徒だ。


『尾行の経験が役に立って良かったです』


理恵の自虐に、蒼太は思わず笑ってしまった。


『ただ、南先輩がすごい剣幕で……止めに入った方が良さそうです!』


「わかった。すぐ行くよ」


通話を切ると、美月の方に体を向けた。


「屋上に行こう」


二人は、南たちがいる屋上へと急いだ。





「先輩たちのやってることこそ、迷惑なんですよ!」


「はあ?あなた何様のつもりなの!?」


ドア越しに言い争う声が聞こえてくる。

今にも手が出そうな南の剣幕に、理恵はおろおろとその様子を監視していた。


「理恵ちゃん、お待たせ」


蒼太たちの姿を見た理恵は、ほっとした表情を浮かべて南たちの方を指さした。


「あそこです!」


その先には、南と小柄な女子生徒が、物々しい雰囲気で立っていた。


「身の程知らずは口で言ってもわからないようね!?いい加減に黙りなさいっ」


南が勢いよく手のひらを振り上げる。女子生徒は咄嗟にぎゅっと目を瞑った。


「ストップストップ~」


蒼太が両腕を軽く挙げながら二人の間に入り、南の動きを制止させる。


が、止めるには少し遅かったようだ。

屋上に鈍い音が響いた。


「痛~~っ!」


「部長!大丈夫ですか!?」


頬を押さえながら痛みに悶える蒼太に、美月が慌てて駆け寄る。


「あなたたちっ……!まさか私の後を付けてたの?いやらしいわねっ」


南は腕組みをしながら、ふんっと鼻を鳴らした。

南と言い争っていた女子生徒は、目を見開きながら呆然と蒼太を見つめた。


「まあいいわ。あなたたちが言ってた脅迫状の犯人は、その子よ」


ギロリと鋭い目付きで女子生徒を睨みつける。


「どういうことですか……?」


いまだに痛みに悶えている蒼太に寄り添いながら、美月が尋ねた。


「その子は新聞部のネタにするために親衛隊に潜り込んだ挙句、私たちのせいにするために脅迫状を送ったのよ!!」


南が声を荒げながら、女子生徒を力強く指さす。

指をさされた女性生徒は、キッと鋭い視線を南に返した。


「こうでもしないと、先輩たちは氷山くんへの嫌がらせをやめないじゃないですか!」


「さっきから何を言ってるの?私たちは氷山くんを全力で応援して……」


南の言葉で、女子生徒はさらに怒りを増した。


「それが迷惑だって言ってるんですよ!のことが好きならどうしてわからないんですか!?」


「湊、斗……?」


南は、まるで時が止まったかのように目を見開いたまま固まってしまった。

そして、その額に少しずつ青筋が立ち始めた。


「ふ、二人とも一旦落ち着きましょう!!」


沸々と噴火の準備をする火山のような恐ろしさを南から感じた美月は、慌てて仲介に入った。


「あなたは……一体、何なのよっ!!!!」


女子生徒に飛びかかろうとする南を、蒼太がよろけながら何とか羽交い締めにして必死に止める。

少し離れたところにいた理恵が駆け寄り、美月とともに女子生徒を南から離した。


「一旦、落ち着いて!ストップ!ストップ~~!!」


暴れる南にぽかぽかと殴られる蒼太の弱々しい叫び声が屋上に響いた。







「いやあ、助かったよ。渡辺くん、副会長」


「親衛隊があそこまでヤバいやつだったとはな……」


「南さんは一番の過激派だからね~」


南の暴走を蒼太一人で止めるのは難しいと判断した美月は、渡辺と美琴に助けを求めた。

三人がかりで何とか南を落ち着かせ、揉めていた二人を一度引き離すことにした。


そして、蒼太たちは南が犯人と言った女子生徒から話を聞くため、生徒会に移動したのだった。


「それじゃあ、話を聞かせてもらえるかな?君の名前は?」


蒼太は、南と言い争っていた女子生徒に視線を向けた。


「……三門涼乃みかどすずのです」


平均より小さめな身長に、肩にかかるくらいのボブヘアの女子生徒、

三門涼乃は、蒼太をまっすぐ見つめて答えた。

その瞳からは、小柄な容姿とは裏腹に芯の強さが感じられた。


「脅迫状を送ったのが君というのは、本当かい?」


蒼太の問いに、涼乃は小さく頷いた。


「“新聞部のネタ”にしようとした、“親衛隊のせいにしようとした”と、南先輩が仰ってましたね」


美月が涼乃の方を見つめる。


「南先輩が言っていたことは本当です……私は親衛隊を解体させたかったんです」


涼乃はぎゅっと拳を握りしめた。


「親衛隊と言っておきながら、隠し撮りしたり、遠巻きに騒ぎ立てたり……迷惑行為ばかりです。氷山くんのことを思うなら、そっとしておいてあげればいいのに」


彼女の言うことは最もである。しかし、彼女の行動には疑問があった。


「それでも脅迫状なんて送ったら、結局氷山くんにも迷惑がかかるんじゃないかな?」


蒼太が尋ねると、涼乃の表情がこわばった。


「……生徒会長なんて、やらない方がいいんですよ」


涼乃が、視線を落としながらぼそりと呟いた。


「君は氷山くんの……」


ガラガラ―


蒼太が言いかけた時、勢いよくドアが開いた。


「副会長!渡辺先輩、大変ですっ……って、なんかいっぱいいる!?」


息を切らして入って来たのは、生徒会庶務の山口咲奈やまぐちさなだった。


「そんなに慌ててどうしたの?咲奈ちゃん」


美琴がきょとんした表情で尋ねる。


「会長が!階段から突き落とされたんです!!」


その言葉で、部屋の空気が一気に凍りついた。

誰もが言葉を失い、呆然と山口を見つめた。

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