第12話「脅迫状が届きました」②

「心当たりがあり過ぎてわかりませんね」


現生徒会長の氷山湊斗ひやまみなとは自身の席で書類に視線を向けたまま、淡々と答えた。


「開き直るなよ」


隣にいた会計の渡辺樹わたなべいつきがため息をつく。


蒼太たちは、湊斗に話を聞くため生徒会室へとやってきていた。


「ちなみに氷山くんの支援者は誰なんだい?」


「私と渡辺くんよ」


蒼太の問いに美琴が答えた。


「渡辺先輩が……?」


美月は目を丸くして、渡辺の方をちらりと見る。


「副会長に頼まれてね。こいつ友だちもいないし、他に頼める人いないから仕方なくやってるんだ」


渡辺がやれやれと言った表情で言うと、湊斗は図星だったのか、珍しく反論せずに怪訝な表情で仕事を続けていた。


「なんだかんだで面倒見いいのよ、渡辺くん」


美琴がぼそりと蒼太たちに耳打ちをする。

湊斗に対して、いつも憎まれ口をたたいている印象だったが、案外かわいがっているのかもしれない。


「ただ、変な親衛隊はいるよな?」


渡辺がにやりと笑った。


「親衛隊?」


「こいつ一部の女子に人気みたいでさ。結構厄介なファンがいるらしいんだよ」


蒼太が興味深そうに渡辺に視線を向けた。


「氷山を隠し撮りして、”今日の氷山様”とかってSNSにあげてるらしい」


「……それ、もう事件じゃない?」


親衛隊の行動に、蒼太は呆然とした。


「その親衛隊の人なら、佐倉先輩と伊勢山先輩に脅迫状を送っていても不思議じゃないですね……」


美月が確認するように蒼太の方を向いた。


「隠し撮りも慣れてるみたいだし、可能性は高いね。その人たちに会ってみたいんだけど、どこにいるかわかるかな?」


「誰が親衛隊かは知らないんだけど、氷山をつけてれば見つかるんじゃないか?」


「やめてくださいよ、面倒くさい」


湊斗が即座に釘を差す。他人事のように振る舞っているが、話は聞いているようだ。


「私知ってるわよ。3年A組の南さんが親衛隊隊長。『氷山くんに近付き過ぎ!』って何度も文句言われたのよね」


美琴が苦笑い混じりに言った。


「すごそうな方ですね……」


「そうだね……中々癖がありそうだけど、とりあえず会いに行ってみようか」


蒼太と美月は、噂の氷山親衛隊の隊長に会うため3年A組へと向かった。





「探偵部が何の用?」


南志穂みなみしほは、光沢のある長い髪をさらりと払い、刺すような視線を蒼太たちに向けた。


「君が氷山くん親衛隊の隊長さんって聞いたんだけど、間違いないかな?」


「そうだけど、あなた達に関係ある?」


南の威圧的な態度に、美月は思わず苦笑いをする。

蒼太は南の反応を見て、早めに湊斗の名前を出すことにした。


「実は、氷山くんが困っていることがあってね。君に協力してほしいんだ」


「なんですって!?」


南は目をカッと開き、前のめりになった。その圧に蒼太は思わず後ずさりをした。






「……そう言う訳で、氷山くんの支援者を犯人に見せかけるために、佐倉さんと伊勢山くんに脅迫状を送ったと考えてるんだ。あ、このことは他言禁物でね」


「氷山くんを陥れようだなんて……そんな身の程知らずただじゃ置かないわ」


蒼太が事情を説明すると、南の眼光はさらに鋭さを増した。


「氷山くんに敵意を持ってそうな人に心当たりあるかな?」


「彼の魅力に嫉妬してる人は多いでしょうね。凡人には眩しすぎてしまうもの」


南は頬に手を添えながら、うっとりとした表情を浮かべた。

湊斗に相当陶酔しているようで、彼のことになると何をするかわからない。

そんな危うさが垣間見えた。


「親衛隊の誰かが、氷山くんのために送った。なんてことはないかな?」


「それはないわ。隊員の指導は徹底してるもの……」


そう言った南の表情が一瞬固まった。

すらりとした体型に整った顔、まるで美しい彫刻のようにぴたりと動かなくなった。


「何か思い出したのかい?」


不思議に思った蒼太が問いかける。


「いえ……なんでもないわ」


南が唇をゆっくりと吊り上げる。

笑っているはずの彼女の瞳はどこか冷たく、違和感のある表情だった。


「それじゃあ、何かあったら言ってちょうだい。氷山くんのためなら何でも協力するわ」


南は、長い髪を払いながらくるりと背を向けると、すたすたと去っていった。


「南さん、何か心辺りがありそうでしたね」


美月の言葉に蒼太が頷く。


「そうだね、その人に接触しに行くつもりかもしれない。後を追いたいけど、僕たちが近付くと警戒されてしまうだろうね……」


蒼太は少し考え込んでから再び口を開いた。


「よし、助っ人を頼もう」


「助っ人?」


「美月ちゃんも知ってる子だよ」


蒼太は、にこりと笑うとスマホを取り出したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る