第11話「脅迫状が届きました」①

秋というには肌寒く、冬の気配を感じ始めていた頃

校内はあるイベントに向けて賑わいを見せていた。


「ちょっと!そこのあなた!!生徒会選挙は、絶対佐倉先輩に入れなさいよ!?」


「瑠璃ちゃん!そんなことしたら逆効果でしょ!」


有栖川瑠璃ありすがわるりは、桜色の布に『佐倉詩乃』と金糸で刺繍した手作りの旗を掲げ、道行く生徒を脅して周っていた。

その隣では、川瀬澪かわせみおが有栖川の横行を必死に止めていた。


「瑠璃ちゃんは本当に面白い子ね」


その様子をにこにこと微笑みながら眺めていたのが、旗の主である佐倉詩乃さくらしのであった。



「ついに、生徒会選挙ですね……!」


美月が感慨深くつぶやくと、隣で蒼太が頷いた。


「いよいよ氷山くんと佐倉さんの対決の時がきたね~」


そんな二人の存在に気が付いた佐倉が穏やかに微笑む。


「探偵部さん、あの時は本当にお世話になりました」


佐倉の美しいお辞儀に、美月もつられて背筋を伸ばした。


「あの二人を支援者にしてるんだね?」


蒼太は、有栖川と川瀬の方に視線を向けた。

二人は以前に、佐倉を思う気持ちが暴走してしまい、ある事件を起こしていた。

探偵部によって解決することができたが、佐倉にとっては正直とばっちりであっただろう。


「はい。大切な二人と一緒に勝ちたいんです」


佐倉は嬉しそうに微笑みながら二人を見つめた。


「佐倉さんらしいね」


蒼太もつられて微笑む。彼女のすべてを包み込むような温かい優しさは、選挙で最大の武器になるだろう。


「今回は氷山くんと、もう一人候補者がいるんですよね?」


「そうなの。私と同じ2年生の”伊勢山煌いせやまこう”くん。成績トップの秀才よ。それに、とても穏やかで誰にでも優しい人なの。今回の強敵は氷山くんだけじゃないのよね」


佐倉は苦笑いしながら頬に手を当てた。


「それは、中々面白い戦いになりそうだね」


蒼太は、壁に貼られている候補者のポスターを興味深そうに眺めた。

仏頂面で睨むような表情の氷山、穏やかに微笑む佐倉、微笑みながらもキリッとした表情の伊勢山。三者三様で、それぞれの個性がよく表れていた。


「大変だと思いますが、選挙頑張ってください!」


「ありがとう。探偵部さんと氷山くんのおかげで、また挑戦できるんだもの。全力を尽くします!」


佐倉は、可憐な見た目には似合わないガッツポーズを見せて微笑んだ。


「今回は何も起こらないといいんだけどね」


「不吉なこと言わないでください……!」


遠い目をする蒼太に、美月も内心どこか胸騒ぎがしていた。





数日後、探偵部の部室に来訪者があった。


「探偵部さん。何度も悪いんだけど、また相談したいことがあるの」


やってきたのは、現生徒会副会長の篠原美琴しのはらみことだった。


「その様子だと、選挙で何か問題があったのかな?」


「そうなのよ……」


美琴が小さくため息をつく。


「実はね、候補者宛てに脅迫状が届いたの」


「え?氷山くんにかい?」


蒼太が予想通りの反応をしたため、美琴は思わず笑ってしまった。


「そう思うわよね……それが、会長以外の二人宛てに届いたのよ」


蒼太と美月が、目を見開く。


「佐倉さんと伊勢山くんに?」


美琴がゆっくりと頷く。

敵の多そうな氷山宛てではなく、人望の高い二人宛であったことに蒼太たちは驚いた。


「これを見てくれる?」


美琴は、机の上に白い封筒を置いた。


蒼太がその中身を開くと、白い紙と数枚の写真が入っていた。


『立候補を取り下げなければ、後悔することになります』


そう印字された白い紙と、有栖川と川瀬がそれぞれ隠し撮りされた写真が入っていた。

どちらの写真にも、赤いマーカーで大きく「×」が引かれている。


「手紙と二人の支援者の写真が、佐倉さんと伊勢山くんの靴箱にそれぞれ入っていたそうよ」


真剣な表情で美琴が告げる。


「支援者の写真…。狙うのは本人じゃなく周りってことか」


「優しいお二人は、辞退してしまうかもしれませんね……」


「そうなのよ。せっかくみんな頑張っているのに、台無しにしたくないの」


美琴がぎゅっと眉を寄せる。


「嫌な予感はしてたけど、まさか本当に事件が起こるとはね……」


蒼太が苦笑い混じりにつぶやいた。


「今回も協力してくれないかしら?」


美琴は二人に視線を送った。その瞳からは強い思いが感じ取れる。

前回の事件のこともあり、美琴は氷山と佐倉が、正々堂々戦える最後の機会を何とか守りたいと考えていた。


「もちろん。氷山くんたちの対決は、僕たちも楽しみにしてたしね」


蒼汰が言うと、美月も力強く頷いた。


「ありがとう。助かるわ」


美琴が、ほっとした表情で微笑んだ。


「犯人は、恐らく会長の支援者よね?」


「う~ん、それにしては安易だと思うんだよね。氷山くんだけに送らないなんてあからさま過ぎる」


「確かにそうですね……もしかして、また氷山くんの評価を下げるために?」


「その可能性が高いと思う。『氷山くんの支援者が、脅迫状を送った』っていう噂を作りたいんじゃないかな」


美月の問いに蒼太が頷いた。


「結局、また会長が標的なのね…」


美琴は頭を抱えながら、小さくため息をついたのだった。

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