2. 高校生、青い斉木の行動
「デッキ、完成した。もう無限に勝てるわ。敗北はない」
斉木は、俺たちの高校時代の同級生だった。
学年に何人かいた、
ふっくらした体格は、奴の陽気な性格と相俟って美点となっていた。
「バーカ。んな簡単に完璧になってたら世話ないわ。【地獄嵐】とか刺さったら一瞬で崩壊するだろうが」
「そこは、俺の無限の運命力よ」
愚かな口癖の持ち主だった。とは言え、ティーンエイジャーとしてはあまりにありふれた愚かしさで、問題になるようなことはほとんどなかったように思う。
「そもそも、今のデッキは、無限信者として片手落ちなんじゃないかと思うな」
指摘したのは潮田だった。
「なんだとう?」
「無限信者なら、デッキに【アルカディア】を組み込まないとダメでしょ。有限カードしか持ってないのに無限無限言ってるのは、レギュ違反だと思う」
「【アルカディア】は効率が悪すぎるんだよ……」
「ロマンの価値は無限でしょ!?」
「有限だわ!」
所定のカードを手札に五枚揃えることで、攻撃力が『無限』と設定されたキャラクターを召喚できる。揃えることで自動的に勝利できると定義された、一見ぶっ壊れカード、【封印されしアルカディア】。
しかし実態は、揃えられないかぎり役立たずのカードを五枚も手元に集めるという、「だったら普通に戦った方が勝てるわ」という性能であった、安易に採用することはできなかった。
愚かなる『無限』バカも、無限に『無限』の情熱は注げないんだ、と思ったエピソードであったりする。
「お前の『無限』愛はそんなもんだったのか? バカはきちんと無限に骨を埋めないとダメだろ」
しまった、後半、つい本音が。
「バカじゃねぇよ! 俺の無限に賢いゴーストが、そのデッキはダメだと囁いてるんだって!」
一般的な男子高校生並に愚かで、一般的な男子高校生よりはちょっとだけ、将来への心配に楽観的だったかもしれないあの頃。
あんな日々が、それこそ『無限』に続くなどと思っていた奴は、誰一人いなかったと思う。そんな中、ハッタリと妄言とネットミームを互い違いに繰り出すことで会話していた愚かな俺たちは、世界の中でも結構幸せなのではないかと、当時も思っていたし、今思い返してもそう思う。 あの楽観的な無限バカが、あんなことになるだなんて、俺たちは想像していなかったのだ。
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