3.社会人、斉木の行動

 俺は、左手にTCGの手札を抱えつつ、右でビールのジョッキをあおって悪態をついた。

「事故ったわ。なんか根本的に構成間違ったかも」

 社会人二年目。非常にありがたいことに、高校時代の趣味の輪は、この期に及んで続いていた。

 カラオケボックス。BGMの代わりに、温泉地のPR動画だの新進歌手のインタビュー動画だのが、最小限のボリュームで流れている。飲食をしつつ好き勝手に机も使えるスペースとして、重宝する会場だった。

 TCGプレイヤーとして現役とは言いがたい俺たちが遊んでいるのは、ドラフト戦だった。

 生涯で買い集めてきたカードを使い、現状のルールの中で最強となるデッキを構築して戦う通常戦に対し。『今日、この場で』購入したカードから思い思いのアドリブデッキを突発作成して戦うドラフト戦。

 趣味に使える金額と時間に格差が発生しがちな社会人が、ある意味でフェアに戦えるルールで、俺たちは戦っていた。

 アドリブ力での戦いとなるだけに、ある意味では、より残酷な差が生まれかねない遊び方でもあるのだが。

「【首なし騎士】を攻撃表示。バフがドン・ドン・ドンで3000だから、松本の【虹の横綱】を撃破してライフゼロ、勝利、だよな?」

 『あれー?』などと思いつつグズグズとプレイしていた俺は、投了する暇もなく、斉木に撃破されたのであった。

「弱い方が酒でデバフしちゃダメでしょ」

 潮田の容赦ないツッコミが飛ぶ。

「俺を『弱い方』と申すか」

「勝ててない方は『弱い方』でしょうよ」

「命が惜しくないと見える……」

 俺は、オタクなりの殺気を目一杯纏わせた、虚仮威しの手刀を潮田に向ける。

「命が惜しくて、戦えましょうや……」

 潮田も、デタラメな中国拳法風の構えで応戦する。翼のようにワザとらしくはためかせた両手を高く上げて見せた。

 俺たちの視線は自然と、三人目である斉木の方に向いた。

 愛すべき愚かなる無限バカの反応を、ついつい期待したのだ。

 かくしてその反応は、

「あはは……」

 苦笑いだった。

 小さな我らの友人コミュニティに、明確なアラートが鳴った瞬間であった。


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