第3話 エルミーラ山での戦い

ピコリンとヘラチョは、エルミーラ山にさらわれたピーノを助けるため

急いでエルミーラ城を出ようとしました。

「ピコ様!」

後ろから聞こえたその声に振り向くと、一人の兵士があわてた様子でこちらに走ってきました。

「どうしたの?」

「大変です! 先ほどピーノ嬢が隠し部屋で発見されました!」

「え!」

思いがけない報告にピコリンは目を丸くしました。

「今、王に伝えに行く所です。」

そして兵士の横から、そっとピーノが顔を出しました。

「ピーノ!なんだ、さらわれてなかったんだね、良かった! 大丈夫なの??」

ピコリンはピーノの顔を見て胸をなでおろしました。

「うん、私は大丈夫。でもね、リリちゃんが…」

ピーノは目を真っ赤にして言いました。

「え、リリ?」

「あのね、実は昨日さらわれそうになった時、リリちゃんがとっさに私を隠れ部屋に隠してくれたの。それで、魔物たちが私とまちがえてリリちゃんをさらって行っちゃって…」

ピーノはグスグスと泣き出しました。

「リリが連れ去られたの?」

「リリ様といえば、ピーノ嬢の大のお友達でしたよね。」

ヘラチョが心配そうに言いました。

「そう! お願い! お兄ちゃん、リリちゃんを助けて!」

ピーノは泣きながら言いました。

「わかった。このままリリを助けに行く! 父さんにもそう伝えて!」

ピコリンとヘラチョは顔を見合わせると、急いで城を出ました。



エルミーラ山へは、険しい森を抜けないといけません。

ヘラチョの息が切れてきたところで、ピコリンたちは森の中間あたりにある切り株の上で少し休むことにしました。

「…すみません、ピコ様。」

「僕も疲れてたとこだから気にしないで。」

しばらくすると

「たすけて〜」

とどこからか小さい声が聞こえました。

「…ん? なにか聞こえない?」

ピコリンはヘラチョにたずねました。

「いえ、私の耳には何も…。」

「助けて〜。」

「やっぱり聞こえる! あそこの岩の中から聞こえる!」

岩の近くに行ってみると、そこには小さな虫の男の子がはさまっていました。

ピコリンは急いでヘラチョとともに岩をどけました。

岩からでてきた男の子は立ち上がってほっとしたように話し出しました。

「はーっ、助かった。ありがとう、ぼくはノミリン。この崖に咲いてるあの薬草を取ろうと思ったら崖がくずれてしまって岩にはさまれてしまったんだ…いたっ」

「足をくじいたようですな。」

ピコリンは崖の上のほうを見ました。そこには、目の形をした植物が生えていました。

「あの薬草がいるの? 僕がとってあげるよ!」

そういうとピコリンはぴょんと飛んで薬草を取ってあげました。

「すごい! 飛べるんだ!」

「毎日、フライングポテトを食べてるからね! それより、ケガしてるんだろう?家まで送って行くよ。」

「それじゃ、私の背中に乗ってくだされ!」

「大丈夫なの、ヘラチョ?」

「少し休んだら回復しましたぞ。」

そう言うとヘラチョはノミリンをおんぶしてノミリンの家まで向かいました。



「ねえ、もしかしてその印、エルミーラ王国の兵士なの?」

家までの道中、ノミリンはヘラチョのバッチを見て聞いてきました。

「ああ、そうですよ。」

「そうなんだ!ぼくのじいじもね、昔エルミーラ王の側近だったんだ。」

「え? ノミリン…ノミ…もしかしてノミゾウのことか?」

「え? じいじの事知ってるの?」

「ああ、とても強い兵士じゃった。そうかお前はノミゾウの孫だったのか。」

「うん!」

「ノミゾウは、元気にしてるのか?」

「うーん・・・それがじいじ、エルミーラ山にいる鉄のカブトってやつにやられて寝込んでるんだ。」

「なんだって!」

2人は、顔を見合わせました。

「じいじ、だいぶ体は良くなったけど目が見えないみたいなんだ。それで、ぼく、じいじのために目に効くこのメグスリソウを取りに来たんだ。」

「そうだったんだ…。」

「ねえ、じいじに会ってくれる? きっと喜ぶと思うんだ。」

「もちろん!」

二人は声を合わせて言いました。



ノミリンの家につき、中に入るとベットに横になっているノミジイがいました。

「ノミリン、帰ってきたのか・・・? 誰かいるのか?」

「ノミジイ、私じゃ。」

ヘラチョが話かけました。

「その声は・・・ヘラチョか?」

「ああ、久しぶりじゃの!」

ヘラチョとノミジイはなつかしそうに昔の話をしたり、

今なにをしているかなどの話をしました。

そして、外が暗くなってきたので家に泊まらせてもらうことにしました。

ノミリンはメグスリソウを煎じてノミジイに飲ませました。

「すぐには効かないけど、少しずつ良くなっていくはずだよ。」

「ありがとう、ノミリン。」

ヘラチョは静かにノミジイにたずねました。

「…鉄のカブトはそんなに強いのか?」

「ああ、ふいうちをくらったのもあるが、やっかいな技を使うんじゃ。」

「技?」

ピコリンが聞き返しました。

「光の技じゃ。その光に目をやられて、命からがら逃げてきたんじゃ。

そうじゃ、あいつと戦うのならこれを持っていくと良い。」

ノミジイはピコリンにサングラスを渡しました。

「ありがとう! ノミジイのかたきは僕がとる! かならずヤツをやっつけてくるよ!」

ピコリンは自信満々に言いました。

「…ありがとうございます、王子。」

少ししてノミジイはヘラチョに話しかけました。

「ヘラチョ、これを…。」

「これは…?」

「もしもの時に使うんじゃ。」

そういうとノミジイはピコリンに内緒で小さな笛を渡しました。

朝になり、二人はノミジイとノミリンに別れをつげエルミーラ山に向かいました。



エルミーラ山には元々、山を囲うように壁が作られていました。山のふもとには厳重に閉ざされた門がありましたが、今はボロボロに壊されていました。

「…あいつら、門を壊して入ったんだね。」

ピコリンたちは門をくぐり中に入りました。

先の道はとても入りくんでいて、まるで迷路のようになっていました。

「ピコ様、おまかせください!ピコム王からこの迷路については聞いております!私についてきてくだされ!」ヘラチョは自信満々に前を歩き、ピコリンはその背中について行きました。ぐるぐる同じ所を通っている感覚が何度も続き、ようやく出口らしき門に辿りきました。

「ふ〜。これは道を知ってないと半日以上かかるよ。」

「はい、これはもしの時に敵を混乱させるために作られた仕掛けですじゃ。奴らはかなりここで時間を割いたでしょう。」


ピコリンたちは息を切らしながら、エルミール山の山頂へ向かって一歩一歩進みました。そしてようやく、頂上に辿り着きました。その瞬間、冷たい風が吹き抜けました。ピコリンは、震える心を押さえながら剣を握りしめました。

目の前に、夕日を浴びて輝く騎士の影がありました。

ピコリンたちは、とっさに物陰に隠れてその様子をうかがいました。

「あれが、鉄のカブト…?」

ピコリンがそう言った瞬間、その騎士はピコリンたちの後ろに立っていました。

「え?」

次の瞬間、騎士は大きなツノを振りかぶりピコリンたちはふっ飛ばされてしまいました。

「ぐはっ!」

「何だ、エルミーラの兵士はこんなに弱いのか。」

鉄のカブトは平然とした顔で言いました。

「くっ」

ピコリンたちはなんとか立ち上がりました。その時、

「ピコリン!」

とリリの声が聞こえ、その声のほうを振り向きました。

そこには、岩にしばられているリリがいました。

「リリ!大丈夫か!? 」

「…リリ? 王女はピーノという名前のはず…。そうか、やはりこの娘は王女ではなかったのか。どおりで封印が解けないわけだ。」

「リリは関係ない! 早く離せ!」

「はい、そうですかと渡すバカがどこにいる?この娘を返してほしければエルミーラの継承者である王女を連れてこい!」

「…ピーノはだめだ!」

「ではこの娘がどうなってもいいんだな?」

鉄のカブトはリリに剣を近づけました。

「僕と交換だ!」

「は? 何でお前と…」

「僕はエルミーラの王子ピコリンだ!」

「!」

鉄のカブトは驚いたあと、笑い出しました。

「ははははっ!そうか居場所がわからなかったあの王子が自らここへ出向いてくるとは…それなら話は早い。いいだろう、お前と交換だ!」

鉄のカブトはリリの縄をほどき、腕をつかんで言いました。

「早くこの封印を解くんだ!」

「だめです! ピコ様!」

「…リリのためだ。仕方ない。」

ピコリンはほこらの前にある台の上に足を乗せました。

その瞬間、ほこらの扉は光り、ゴゴゴっと音を立てて開きました。

「ははは、これでついに風の石が手に入る…。」

鉄のカブトが気をゆるめた時、

「くらえー!」

ピコリンは、鉄のカブトめがけてエミーラソードをふり下ろしました。

しかし鉄のカブトは、その攻撃をひらりとかわしました。

「リリ様! こちらへ!」

とっさに鉄のカブトから手が離れたリリはヘラチョの元に走り逃げました。

「…お前、やってくれたな。」

鉄のカブトは振り返り、ピコリンをにらみました。

「この石は渡さない! 僕と勝負だ!」

ピコリンは剣をかまえました。

「こざかしい! シャインライト!」

まぶしい光が放たれ、ヘラチョとリリは顔をそむけました。

「ピコさまーっ!」

光の風に飛ばされたピコリンは地面にたおれて動きません。

「ふっ。たやすいものだ。」

鉄のカブトは、ニヤリと笑いました。

「ああ、ピコ様…。」

ヘラチョと、リリが心配そうにピコリンを見ました。すると、

「へへん、そんな呪文はきかないよ! 僕には、これがあるもんね!」

ピコリンは、ノミジイからもらったサングラスをかけて立ち上がりました。

ヘラチョとリリは、その姿を見てほっと一安心しました。

「ふ、ならば剣で勝負だ!」

鉄のカブトはピコリンに向かって剣やツノで攻撃してきました。

敵の動きはあまりにも速く、ピコリンは剣を振るうこともできず、あっという間に地面に叩きつけられました。

「つ、強い!」

「さっきのいせいはどうした?こんなに弱いくせにオレに戦いを挑もうなんて1万年早いわ!」

「このままでは石を奪われてしまう…。石…そうだ。僕にはあの石があるじゃないか。」

ピコリンは首にかけたネックレスから赤い炎の石を取り出し、その石を高く掲げると、まばゆい光があたりを照らし、炎が一気に鉄のカブトの周りをかこみました。

しかし、鉄のカブトはびくともしません。

「お前、その石を持っていたのか! 手間がはぶけた。その石もいただくぞ!」

そう言うと、鉄のカブトは炎めがけてまぶしい閃光を放ちました。

炎は風でとばされ、ピコリンめがけて熱風が襲いました。

「うわ!」

ピコリンは倒れ、そのまま気絶してしまいました。

「ピコ様!」

ヘラチョが呼びかけましたが、ピコリンはピクリともしません。

そして、鉄のカブトはピコリンが持っている炎の石を奪い取り、ピコリンめがけて剣をかかげました。

「このままでは…そうだ、ノミジイにもらったこの笛!」

ヘラチョがその笛を吹くと軽やかなメロディが流れました。


「ふふっ、これであの方に喜んでもらえるぞ。お前は用なしだ、終わりだ!」

鉄のカブトがピコリンに剣を突き刺そうとしたその時、どこからともなく大きな鳥が現れました。

「なにっ!?」

その鳥は鋭い爪でピコリンをつかみ、そのまま力強い羽ばたきとともに低空を飛んだかと思うと、ヘラチョとリリも一緒につかんで地上から一気に高く舞い上がりました。遠ざかっていくピコリンたちを忌々しい顔で睨みながら鉄のカブトは呟きました。

「くそっ、逃したか・・・。まあ、いい、目的は果たした。」

鉄のカブトはそのまま扉が開いたほこらに入って行きました。

そして、黄緑色にかがやく『風の石』を手に取りながら

「ふはははっ、これで石は 『炎』『風』『闇』『光』の4つそろった。

あとは『土』『雷』『氷』。この3つで全てがそろう。」

そう言うとニヤリと笑いました。



「はっ!」

ピコリンは目を開け周りをみわたしました。

ベットの横にはヘラチョ、リリ、ピーノが心配そうにピコリンを見つめていました。

「ピコ様!」

ヘラチョが涙目で手を取りました。

「…ここはどこ? 鉄のカブトは…?」

「ピコ様、目が覚めて良かった!。安心してください。ここは、エルミーラ城。リリ様も無事です。」

みんなは、ピコリンの目覚めに泣いて喜びました。そして、ヘラチョはピコリンに、気絶している間のできごとを話しました。

「そうか…。鳥が僕らを助けてくれたのか…はっ、石はどうなった?」

「…石は2つとも、奴らの手に渡ってしまいました。」

「そ、そんな…。」

それを聞いたピコリンは、悔しくて涙が出てきました。

「僕のせいだ。僕が弱かったからだ。今までは、運が良かっただけで…でもそれだけじゃだめなんだ。」

「ピコ様は立派でした。石は取られましたが、リリ様は無事助けることができました!」

「ピコリン、ごめんなさい。私が捕まったせいで…。」

リリが泣きながら言いました。

「ちがうわ、リリは私をかばってくれたんだもの。悪いのはやつらよ!」

ピーノも泣きながら言いました。

そこへ、ピコリンの目覚めを聞いた王様が入って来ました。

「ピコリン! 目が覚めたか、心配したぞ。」

「父さん、…ごめんなさい。石を取られてしまって…。」

ピコリンはうつむいて言いました。

「いいんじゃ、わしも悪かった。わしもあいつらの力をみくびっていたようじゃ。こんなに力をつけているとは…。やはりあやつら、他の石も手に入れていれるようじゃ。石が増えるたびに力は増していく。このまま力をつけていけば、我々は手出しができなくなってしまう。」

「そんな…。」

ピコリンたちは不安でいっぱいになりました。

「わしが知っている限りじゃと、奴らに渡った石はすでに4つ。残りの3つの石も狙われているじゃろう。その前になんとしても阻止するんじゃ!」

「でもどうやって…僕の力じゃ…。」

ピコリンが自信なさそうに言いました。

「ピコリン、わしの修行を受けてみるか?」

「えっ、修行?」

「わしも昔は、名のある魔法剣士じゃった。足をケガしてからは、戦いには出てないが、お前をきたえることはできる。じゃが、わしの修行は厳しいぞ、覚悟はあるか?」

王様の思いがけない言葉に一瞬とまどいました。しかし、

「はい! 僕、強くなりたいです!」

ピコリンは意を決して言いました。

そしてその言葉を聞いてヘラチョも声を上げました。

「わしも腕がなまっておりますわい。ぜひ一緒に修行させてください!」

「私もお役に立ちたいです!」

「私もお兄ちゃんにつきあう!」

リリとピーノも次々と声を上げました。

こうしてピコリンたちは、石を取り戻すため、厳しい修行に挑むことにしました。

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虫のピコリン はる もも太 @haru_momo

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