第2話 岩ポンをやっつけろ
ある日、ピコリンはいつものように大好きなポテトを食べながら本を読んでいました。
『ピンポーン』玄関のチャイムがなりました。
「ん?誰だろう…。今、いいところなのに…。」
『ピンポーン』『ピンポーン』『ピンポーン』『ピンポーン』
何度もチャイムがなってピコリンはしぶしぶドアに向かいました。
そこには見なれた老人がそわそわした様子で立っていました。
「ヘラチョじゃないか、久しぶりだな〜。」
「ピコ様大変です!」
「どうしたんだよ、 そんなにあわてて。」
「ピ、ピーノ様がさらわれてしまいました!」
「えっ、なんだって!?」
「すぐに王国にお戻りください。」
ピコリンたちは急いで故郷、エルミーラ王国に向かいました。
王国に入るとピコリンはびっくりしました。
それは町がぼろぼろになっていたからです。
「なんてひどい…。」
ピコリンは急いで父がいる城に行きました。
「父さん!」
そこには青ざめた顔をした王様がいました。
「おお、ピコリン! 待ちわびたぞ!」
「ピーノがさらわれたって本当!?」
「ああ、昨夜のことだ。急に大勢の魔物が王国にせめてきてお前の妹をさらっていったんじゃ。」
「ま、魔物?」
「あっという間の出来事じゃった。」
「そんな…!ピーノはどこへ?」
「…まだわからぬ。」王はくやしそうな顔をしました。
「兵士たちに探しに行ってもらっているが、まだ見つかっていない。わしも探しに行きたいのじゃが、魔物にふいをつかれ、足を痛めてしまってな…」
王は大きく腫れ上がった足をさすりながら言いました。
「父さん、大丈夫?」
「わしは大丈夫じゃ。それより、おまえにもピーノを探してもらいたいんじゃ…」
「もちろんだよ。すぐに見つけるよ。」
ピコリンはすぐに答えました。
「たのんだぞ。おまえは幸運の持ち主じゃからな、必ずピーノを見つけ出せると思っているぞ。」
王の部屋から出たピコリンは、ふと思いました。
「・・・とはいえ、どこを探そう。あ、もし魔物と戦うなら武器や防具、道具をそろえなくちゃいけないよな。」
そこで、まずは城下町に行くことにしました。
町はボロボロでしたが、幸運にも武器屋は無事でした。
カランコロン…
武器屋のドアを開けた瞬間、
「た、助けてくれ!」
急に店主が血相を変えてこちらに向かってきました。
「ど、どうしたの?」
ピコリンは店主に聞きました。
「ま、魔物だ!い、岩の魔物が…奥に!」
ピコリンはすぐに武器が並んでいる奥の部屋に入りました。
「おい!何をしている!」
ピコリンの声を聞くと、その灰色のかたまりは振り向きました。そしてピコリンの顔をじっと見つめました。
「…お前は⁉︎あの時の小僧か…!」
「あれ、君はあの時の岩ポンC?」
「違う!俺は岩ポンBだ!この前はよくも邪魔してくれたな、あの石を返せ!」
「? ああ、あの、魔法の石のこと?あれって君たちのだったの?」
そう言われて岩ポンBは一瞬言葉につまりました。
「いや、俺たちのものってわけじゃないけど…。」
「じゃあ、なんで返さなくちゃいけないの?」
「そ、それは、お前が勝手に持って行ったからだろ。それじゃなかったら、オレたちの物になるはずだったんだぞ!」
「だって、君たちがケンカしてたから…。僕が先に手に入れたんだから、もう僕のものだよ。」
ピコリンがそう答えると岩ポンBはさらに怒りだしました。
「お前にあの石は必要ないだろう!? 俺たちには必要なんだ!」
「僕だってあの石が必要だよ。なんか持ってたらふわふわして気分が良くなるし。」
「はぁ?なんだ、その理由!もういい、渡さないなら無理やり取り返してやる!」
そう言うと岩ポンBはピコリンめがけていきおいよく飛びかかってきました。
ピコリンがスイっと体をよけると、岩ポンBは思いきり壁に激突し、その衝撃で体の一部が欠けました。
「うわーっ!やったな、このやろう!!お、俺たちは体が欠けたら力が出ないんだからな! 覚えてやがれ!」
そう言うと、岩ポンは涙目になって武器屋を出て行きました。
「…な、なんだったんだろう、あの人…。まっ、いいか。」
「王子!ありがとうよ! 私からのお礼だ、受け取ってくれ!」
物かげから出てきた武器屋の店主はそう言うと、疾風の剣(しっぷうのつるぎ)をくれました。
「これは、嵐のごとき力でなんでも吹き飛ばす剣だ。壊れやすいから、一度しか使えないから、なかなか売れなくて…。残り物で悪いけどよ。」
「おお、いいの?かっこいい!ありがとう!」
ピコリンは次に防具屋に行きました。防具屋の建物は所々ボロボロになっていました。
カランコロン…
防具屋のドアを開けた瞬間、またもや「た、助けてくれー!」と店主こちらに向かってきました。さっきと同じ光景にピコリンは嫌な予感がしました。すると奥から、またもや灰色のかたまりが出てきました。
「あれ?ここに逃げてきたの?」
「なんだと!? オレは逃げてなんかない、俺は岩ポンCだ。魔法の石が売られてないかこの防具屋に見にきたんだ。」
「BとCも同じにしか見えない…」ピコリンは呟きました。
「ん?お前、あの時の…? お前!あの石はまだ持っているのか?あの石を返せ!」
「…だからあれは僕のだって。」
「あの後またケンカして大変だったんだからな!渡さないなら無理やり奪い取ってやる! 」
そう言うと岩ポンBはピコリンめがけていきおいよく飛びかかってきました。
「えー! また?」
ピコリンは、めんどくさそうに言いました。
岩ポンCは、ピコリンの触覚にかぶりつきました。
「いたたた…!もう!やめてよ!」
ピコリンがおもわず払いのけると、岩ポンCはよろけて近くの机にぶつかり、机の上にあったコップが岩ポンに落ちて、水浸しになりました。
「わ〜! ぬれると力が出ないんだよ〜!」
岩ポンCはそう言うと、そそくさとドアから飛び出していきました。
「体が欠けたり、水に濡れたりしたら力が出せないって…あんなに弱くて大丈夫なんだろうか。まあ、なんだか分からないけど、また助かったみたいだからいっか。」
「ああ、助けてくれてありがとうございます、王子。お礼にこれを受け取ってください!この盾は炎の国で作られた逸品で、どんな炎にも負けません!」
「助けたっていうか、勝手にやられて出ていっただけだけど…まあ、いいの?ありがとう!」
ピコリンは防具屋の店主がくれた火山石の盾を持ち、今度は道具屋に向かいました。
何もせずとも2体の魔物に勝った幸運の持ち主ピコリンが道具屋のドアを開けると、中からまたまた「た、助けてくれー!」と店主こちらに向かってきました。
「だと思った‼︎」
ピコリンはうんざりしたように言うと、奥の部屋に進みました。そこには、今までより1.5倍ぐらい大きい岩ポンがいました。
「…ん?お前は⁉︎」
「ああ、そうだよ、あの時のピコリンだよ!岩ポンA!」
「俺は岩ポンAじゃない、オレは岩ポン親分だ!」
「お、親分?え、Aじゃないんだ…。それにしても、君たち、ちょっと違いがわからないなあ…。」
「うるさい、黙れ!まさか、BとCをやったのか…?」
「いやー、やったというか、勝手にやられてどっか行っちゃったけど…。」
「なにい〜 あいつら、使いもんにならねえな! 覚悟しろ!オレはあいつらとは違うからな!」
そう言うと、岩ポン親分は口から泥を連射で吐き出してきました。
「わー!」ピコリンはコロコロと転がって近くの棚の後ろに隠れました。棚に当たった泥は、赤くドロドロに光り、じゅうっと音を立てて溶けていきました。
「ええ!なんなの、この泥!溶岩?」
「そうだ、この泥に当たったらひとたまりもないぜ!」
「あっ!そうだ、さっきもらった火山石の盾!」
ピコリンは火山石の盾を取り出し、岩ポン親分の前に立ちました。
岩ポン親分は、盾目掛けて泥を吐いてきました。
いくつもの泥が盾に当たりましたが、盾は傷ひとつつきません。
「この盾、すごいや!」
「くそっ、じゃあこれならどうだ!」
岩ポン親分は思い切り息を吸い込むと、口から熱風を吐き出しました。
「うわ〜っ!」
あまりの風の強さにドアは吹き飛び、ピコリンは外に吹き飛ばされ転がりました。
そして、持っていた疾風の剣や火山石の盾も飛ばされてしまいました。
「クク、これでおしまいだ!!」
岩ポン親分はそう言うと、再び泥を吐いてきました。
その時です、ピコリンは思いつきました。
「そうだ! 飛べばいんだ!」
そうです! ピコリンはいつも大好物の『フライングポテト』を食べているのです。
『フライングポテト』とは、食べると1日空が飛べるポテトのことです。
「こんなときに役立つなんて思わなかったな〜。」
ピコリンは岩ポン親分の攻撃を次々と飛びながらかわしていきました。
「お前! 飛ぶなんてひきょうだぞ! もう怒った。オレ最強の必殺技をおみまいしてやる!」
『紅蓮岩砕!(ぐれんがんさい)』
岩ポン親分は燃え盛る岩塊をピコリン目掛けて投げてきました。
「わああ!」ピコリンはそばに落ちていた疾風の剣を手に取り、思いっきりふりました。その瞬間、轟音とともに暴風が起き、燃え盛る岩塊は岩ポン親分に向かって放たれました。
「うわーっ!」
燃え盛る岩塊が体の一部をくだき、岩ポン親分はその場でバタリと倒れました。
「なんて威力だ…。」
ピコリンが持っていた疾風の剣は、粉々に壊れました。
ピコリンは岩ポン親分にあわててかけより、「大丈夫?」と聞きました。
「お前、やるな… さあ、とどめをさせ。」
岩ポン親分はそう言うと目を閉じました。
「とどめなんてささないよ。」
「…なに? このままこの俺を生かしておく気か?」
「僕は戦いたいわけじゃなくて、ただ妹を見つけたいだけなんだ。
魔法の石もそのためにこれから使うかもしれないし、今は渡せない…。」
「…ふ、お前は甘いな。仕方ない、少しだけ教えてやろう…。俺たちは魔王様の命で石を集めている。魔王様の部下で『鉄のカブト』と言うものがエルミーラ山の山頂で何か探していると聞いた。それがお前の妹と関係しているかもしれん。俺が言えるのはここまでだ。」
「ええ⁉︎ 親分、なんていい人なんだ! 教えてくれてありがとう!」
ピコリンは思わぬ情報に喜びました。
「…ふん、次に会ったときは ようしゃしないぜ。」
「親分!」
物陰から岩ポンBとCがひょこっと出てきました。どうやら物陰から見ていたようです。親分は子分たちに抱えられながら、どこかに運ばれていきました。
ピコリンは城に戻り、王様に岩ポン親分から聞いたことを話しました。
王様は驚いて言いました。
「エルミーラ山? …まさか、あやつら、あれを狙っているのか。」
「あれって?」
「やつらは魔法の石をねらっておるのかもしれん。」
「え、魔法の石…?」
ピコリンは自分が持っている赤い石を思い浮かべました。
「… この世界は7 つの大陸によって成り立っておるのは知っているじゃろう?」
「うん。」
「代々、その大陸の王国が守っている石がある。それが魔法の石じゃ。フレイラ王国は【炎の石】、ヒョンガム王国は【氷の石】、ガッツア王国は【土の石】、ピカラ王国は【光の石】、ガリオン王国は【雷の石】、ヤガル王国は【闇の石】、そしてここ、エルミーラ王国は【風の石】じゃ。
その魔法の石をすべてそろえると、とてつもない力となり、使い方によってはこの世界を滅ぼすほどといわれておる。その者は、魔法の石を集めて良からぬことをたくらんでおるに違いない。」
「…ということは、そのエルミーラが守っている風の石がエルミーラ山にあるの?」
「そうじゃ、エルミーラ山の山頂のほこらに封印しておる。その封印を解くことができるのは、エルミーラ王族の継承者だけじゃ。やつらそのことを知って継承者であるピーノをさらったのかもしれん。」
「そんな…。ピーノが封印を開けてしまったらどうなるの?」
「石は奪われ、ピーノは…生きて帰れるか…。」
「そんなこと絶対させない! 僕が必ず石とピーノを守ってみせるよ!」
「危険だぞ。それでも行くのか?」
「もちろん!」
「たのもしくなったな。わかった。頼むぞ、ピコリン!」
王様はそう言うと、ヘラチョを呼びました。
「他の石も危ないな。ヘラチョ、各国の国王に連絡してくれるか。」
「はい、すぐに!」
ヘラチョが急いで出ていこうとした時、ピコリンは言いました。
「…あ、魔法の石と言えば、僕、この間石を手に入れたんだ。」
そう言うと、ピコリンは赤い石を取り出しました。
「な!? それは、炎の石じゃないか? なぜお前が持ってる?」
王様とヘラチョが驚きました。
「あ〜、実は池に水飲みに行った時に足をすべらせて、目が覚めたらいつの間にか洞窟に着いたんだよね。そしたら岩ポンっていう魔物たちがその赤い石を取ろうとしてたところを先に持って帰ったんだ。」
王様とヘラチョは顔を見合わせ微笑みました。
「…なるほどそう言うことか。ピコリン、その洞窟は隣の炎の大陸にある洞窟じゃ。お前の家は洞窟に近いから、そこに流れついて、封印が解け、その炎の石を手に入れることができたんじゃ。」
「ええっ? 封印?…あ、扉を開いた時に鍵が開いた音がしたよ。もしかしてその時に封印が解けたのかな。」
「ああ、そうじゃ。」
「 え、…でも、僕、炎の国の継承者じゃないよ?なのに封印が解けたの?」
ピコリンの疑問に王様が静かに答えました。
「…お前の母は、炎の王国の姫君じゃないか。お前は、エルミーラの継承者であり、炎の王国の継承者でもあるんじゃ。」
「ああ、そうか。お母さんは炎の国のお姫様だったんだよね…。」
ピコリンは亡き母を思い出しました。
「……もしかしたら母さんの導きがあったのかもしれんな。母さんはいつでもお前を見守ってくれているはずじゃからな。」
「…うん!」
ピコリンは力強くうなづきました。
「そうじゃ、山には凶暴な魔物がうじゃうじゃいるからこれを持って行け。」
そう言うと、王様はピコリンに長く立派な剣を渡しました。
「これはピコ家に代々伝わる剣、エミーラソードじゃ。」
「わあ、すごい! ありがとう、父さん!」
ピコリンはもらった剣をブンブン振り回しました。
「ピコ様、ここで振り回すのはちょっと…。」
ヘラチョが剣を避けながら不安そうな顔で言いました。
「ああ、ごめんヘラチョ!」
こうしてピコリンはエルミーラ山に旅立つのでした。
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