第3話
翌日、俺は朝一番で家を出た。
昨日、ATMから引き出した200万円をカバンに入れ、美容外科のサイトで調べていたクリニックへ向かう。
駅から少し歩いたところにある、清潔感のある白いビル。
俺のような高校生が入るには、少し場違いな気がした。
ドアを開けると、上品な香りが漂う。
受付の女性は、俺の顔を見て一瞬だけ驚いたようだったが、すぐにプロの笑顔に戻った。
予約していた三条先生の診察室に通される。
三条先生は、30代くらいの落ち着いた雰囲気の医師だ。
「日比谷翔さんですね。カウンセリングシート、拝見しました。ご希望は、二重、鼻、そして輪郭…すべてですね」
俺は、緊張で声がうまく出なかったが、小さく頷いた。
先生は、俺の顔をじっと見て、カルテに何かを書き込んでいく。
「顔は語りの入口にすぎない。語る力は、顔の奥にある」
先生が、ふいにそう言った。
俺は、その言葉の意味が分からなかったが、ただ黙って聞いていた。
手術台に乗せられ、顔に麻酔を打たれる。
チクリとした痛み。
それから、意識がぼんやりとしてきた。
俺は、この顔と、今日でお別れだ。
そう思うと、不思議と安心した。
この不細工な顔。
この顔のせいで、俺は地獄を見てきた。
家族の冷たい視線、光の嘲笑、学校での孤立。
すべて、この顔が原因だ。
この顔さえなければ、俺はもっと普通に生きられたはずだ。
この顔を捨てて、俺は生まれ変わるんだ。
だが、意識が薄れていく中、別の記憶が蘇る。
深夜のコンビニ。
疲労で手が震えている俺を見て、何も言わずに去っていった三笠さん。
体育祭の裏庭。
「頑張ってる翔くんは、かっこいいと思うよ」と言ってくれた雪先輩。
そして、祖母の温かい手。
「その手は…かけるだね」
彼女たちは、俺の顔を見ていなかった。
俺の顔ではなく、俺自身を見てくれていた。
この顔を捨てたら、俺は本当に、あの時の俺じゃなくなるのか?
俺の語りは、顔を変えたら、変わってしまうのか?
いや、違う。
この顔を捨てて、俺は、俺自身が語るべき物語を、これから見つけるんだ。
そう、心の中で強く誓った。
麻酔が効き始め、俺の意識は、ゆっくりと暗闇の中に沈んでいった。
整形外科医・三条陸視点___
日比谷翔。17歳。
カウンセリングシートには、二重、鼻、輪郭形成と、複数の手術希望が書かれていた。
彼の顔を診たとき、すぐにわかった。
この子は、顔の造形を変えたいのではない。
この顔が定義する、彼の人生を、根底から変えたいのだと。
彼の目は、疲労で深くくぼみ、どこか諦めにも似た光を宿していた。だが、その奥には、強い意志が燃えているのが見えた。
その目は、「こんな顔じゃ、生きていけない」と静かに語っていた。
「顔は語りの入口にすぎない。語る力は、顔の奥にある」
私が彼にそう言ったのは、この言葉を、かつての自分自身に言い聞かせていたからだ。
私も、かつては容姿にコンプレックスを抱え、整形手術を受けた経験がある。
顔を変えたところで、全てが解決するわけではない。
真に変わるべきは、その顔を使って何を「語る」か、その力なのだ。
だが、その「語り」のスタートラインに立つために、顔を変える必要がある人間がいることも、私は知っていた。
手術台に横たわる彼の顔を見下ろす。
彼の顔は、彼がこれまでの人生で背負ってきた、すべての苦痛を物語っていた。
その顔を、今から私がメスで変える。
それは、彼の過去を消す作業ではない。
彼の未来を、彼自身の手で作り直すための、手助けをする作業だ。
麻酔が効き始め、彼の意識が遠のいていく。
私は、メスを握りしめた。
彼の顔の表面を、一つ一つ変えていく。
その間も、私の頭の中では、彼がこれまで歩んできた人生が、走馬灯のように駆け巡っていた。
家族に無視され、学校でいじめられ、ただひたすらに耐え続けた日々。
疲労に満ちた顔で、深夜まで働き続けた姿。
その全てが、彼がこれから「語る」べき物語の、序章なのだ。
手術を終え、彼の顔に包帯を巻く。
その下には、新しい顔がある。
だが、本当に重要なのは、ここからだ。
この新しい顔で、彼はどんな「語り」を始めるのだろうか。
私は、彼の顔の奥に秘められた「語る力」が、この手術によって解放されることを信じている。
それは、彼が自らの手で掴み取る、希望の物語だ。
ゆっくりと意識が浮上する。
ぼんやりとした光が目に差し込み、消毒液と薬品の匂いが鼻をつく。
俺は、手術台の上ではなく、ベッドに横たわっていた。
体が重い。特に顔が、何かの重みでずっしりと沈んでいるような感覚。
包帯だ。
そうだ、俺は手術を受けたんだ。
200万円をかけて、この顔を捨てたんだ。
恐る恐る、手を顔に伸ばす。
指先が触れるのは、包帯の感触だけ。
自分の顔がどうなっているのか、まったく分からない。
だが、この包帯の向こうに、新しい俺の顔がある。
その事実が、俺の心を震わせた。
頭の中で、三条先生の言葉が蘇る。
「顔は語りの入口にすぎない。語る力は、顔の奥にある」
そして、雪先輩の「頑張ってる翔くんは、かっこいいと思うよ」。
三笠さんの「あんたの顔、疲れてんのに、なんか必死な感じ」。
祖母の「その手は…かけるだね」。
俺の顔を、誰も見ていなかった。
いや、俺の顔の奥にある「語り」を見ていてくれた。
俺は、今まで、顔がすべてだと思っていた。
この不細工な顔のせいで、俺の人生は地獄になった。
だから、この顔を捨てれば、すべてが変わると思っていた。
でも、本当に大切なものは、顔じゃなかったのかもしれない。
この顔を捨てて、俺は、俺が語るべき物語を、これから見つけるんだ。
そう、手術台の上で誓った。
病室の窓から、夕日が差し込んでいる。
その光に照らされた俺の部屋は、いつもよりずっと明るく見えた。
俺は、この顔を捨てた。
そして、この世界で、俺自身が語るべき物語を、これから見つけなければならない。
この、まだ見ぬ新しい顔で。
手術から数日後。顔の腫れはまだ残っているが、包帯は取れた。
鏡を見るのが怖くて、まだ自分の新しい顔を見ていない。
だが、その時が来るのはわかっていた。
俺は、タクシーで自宅まで帰ってきた。
カバンには、空っぽになった貯金箱が入っている。
200万円の希望が、形を変えて、俺の顔に宿っている。
家のドアを開けると、リビングから家族の話し声が聞こえてくる。
俺は、誰にも見つからないように、ひっそりと自室へ向かった。
部屋に入ると、ホッと息をつく。
そして、ゆっくりと鏡の前に立った。
手術前に、鏡で自分の顔を見たのは、もう遠い昔のことのようだ。
震える手で、鏡を覗き込む。
そこに映っていたのは、別人だった。
腫れはまだ残っているが、それでも、以前の俺とは違う。
はっきりとした二重の目、すっと通った鼻筋、そしてシャープな輪郭。
俺は、この新しい顔を、ただただ見つめていた。
これが、俺の未来だ。
この顔で、俺は、新しい人生を始める。
その時、ドアがノックされた。
「翔、いるの?」
母・早苗の声だ。
俺は、鏡から目を離し、ドアを開けた。
母は、俺の顔を見るなり、驚いて目を見開いた。
「あんた、その顔…」
母は、俺の顔をまじまじと見つめている。
いつもは冷たい視線が、今は驚きと戸惑いに満ちていた。
「…どうしたのよ」
母の声は、震えていた。
俺は何も言わなかった。
ただ、静かに母の目を見つめ返した。
俺の顔は、もう「家族の恥」ではない。
この顔で、俺は、俺自身が語るべき物語を始める。
俺の人生は、今日、この瞬間から、始まるのだ。
「やっと、僕を見てくれたね…母さん」
俺は、静かに、そしてはっきりとそう言った。
母は、言葉を失って俺を見つめている。
その表情は、困惑と、ほんの少しの恐怖に満ちていた。
俺は、さらに続けた。
「いや…違うか。僕を見てくれたんじゃなくて、この新しい顔を見てくれただけだ。」
母の目が、さらに大きく見開かれた。
その視線に、かつて俺に浴びせられた冷酷な視線が重なる。
「…そうだろ?僕のことなんて、ずっと見ようともしなかったくせに。」
俺の言葉に、母の顔はみるみるうちに青ざめていく。
俺は、もう母を「母さん」とは呼べなかった。
この顔を否定し、存在を無視してきた人間を、俺はもう「母」とは呼べなかった。
「……おばさん」
そう言って、俺は静かにドアを閉めた。
母の顔は、驚愕と後悔に満ちていた。
俺の顔は、もう「家族の恥」ではない。
この顔で、俺は、俺自身が語るべき物語を、俺自身で始める。
俺の人生は、今日、この瞬間から始まるのだ。
あれから数日。
俺は、まだ顔の腫れが完全に引いていない状態で、マスクをつけてバイトに向かった。
200万円を貯めるために毎日通い続けた、見慣れたカフェ「ル・リエーヴル」。
ドアを開けると、雪先輩がいつもの笑顔で迎えてくれた。
「翔くん!よかった、もう大丈夫なの?無理しちゃだめだよ!」
その声に、俺はホッと息をつく。
彼女は、俺の顔の異変には気づいていない。
しかし、バックヤードに入ると、バイトの同僚たちが俺の顔を見て、ひそひそと囁き始めた。
「おい、あいつ、顔どうしたんだ?」
「マスクしてるけど、なんか顔の形が変わってないか?」
俺は、彼らの視線から逃れるように、黙々と着替えを済ませた。
シフトが始まり、俺はレジの前に立った。
客と目を合わせるのが怖かった。
でも、不思議と、以前ほどの恐怖は感じなかった。
この顔は、俺が200万円という大金を払って手に入れた、俺自身の希望だ。
この顔を、もう誰にも、否定させない。
その時、一人の女性客がレジにやってきた。
常連客の柊真琴だ。大学生で、いつも雪先輩と楽しそうに話している。
彼女は俺の顔を見るなり、目を見開いた。
「あれ?もしかして、整形した?」
その言葉に、俺は思わず固まった。
「前の方が、もっと…」
彼女の言葉は、最後まで続かなかった。
雪先輩が「真琴、やめなよ」と、軽く彼女の肩を叩いたからだ。
「……そうです、整形しました」
俺は、震える声で、そう答えた。
真琴は、俺の顔をじっと見つめている。
その視線に、俺は再び、過去の恐怖を感じた。
でも、今回は、違う。
俺は、この顔で、俺自身の物語を「語る」んだ。
「この顔は、僕が必死に働いて、手に入れたものです」
そう言うと、真琴は何も言わずに、ただ俺を見つめていた。
彼女の視線に、軽蔑や嘲笑はなかった。
ただ、困惑と、ほんの少しの興味が宿っているように見えた。
俺は、雪先輩の優しい視線と、真琴の探るような視線を感じながら、静かに会計を済ませた。
この新しい顔で、俺は、まだ始まったばかりの物語を、これから語り続けていく。
この場所から、俺の人生は、再び動き始めたのだ。
手術から二週間が経ち、腫れもだいぶ引いた。
今日から、二学期の後半が始まる。
この新しい顔で、俺は再び学校へ向かう。
制服に袖を通す。見慣れたはずの制服が、なんだか別の服のように感じた。
鏡の前に立つ。
そこに映る俺は、もう「ブサイクな日比谷翔」ではない。
俺は、この顔で、新しい人生を始めるんだ。
学校の門をくぐると、ざわつきが始まった。
女子生徒たちが、俺を見て、ひそひそと囁きあっている。
「あれ、誰?」「転校生かな?」
俺は、マスクを外して、教室へ向かった。
教室に入ると、さらに大きなざわつきが起こった。
クラスメイト全員が、一斉に俺の顔に視線を向ける。
俺の席は、窓際の一番後ろ。
いつもなら、誰にも見られないように、ひっそりと座る場所だ。
でも、今日は違う。
俺の顔は、そこに存在しているだけで、周囲をざわつかせた。
そして、そのざわつきは、かつての俺に向けられた嘲笑とは、全く違うものだった。
そこには、驚きと、そして好奇心があった。
授業が始まるまでの間、何人かのクラスメイトが、俺の席にやってきた。
「お、お前、日比谷か?マジで別人じゃん」
「なんか、イケメンになったな!」
俺は、ただ黙って、彼らの言葉を聞いていた。
そして、その視線の中に、かつて俺をいじめていた幼なじみの光の姿を見つけた。
光は、女子グループの中心で、俺をじっと見ていた。
彼女の顔には、驚きと、そして困惑の色が浮かんでいた。
俺の顔を見て、彼女は、何を思っているんだろう。
授業が始まり、教師が俺の出席を確認する。
「日比谷、いるか?」
俺は、顔を上げて、はっきりと返事をした。
「はい、います」
俺の声は、以前よりも、少しだけ自信に満ちていた。
この新しい顔で、俺は、俺自身が語るべき物語を始める。
俺の人生は、今日、この瞬間から、始まるのだ。
二学期が始まって、数日が経った。
俺の顔は、まだ少し腫れが残っているが、以前とはまったく違うものになっていた。
クラスメイトは、もう俺の顔を見てひそひそと囁くことはない。
代わりに、俺に話しかけてくるようになった。
「日比谷、なんか、イケメンになったな!」
「どこの病院で整形したの?教えてよ!」
彼らの言葉は、まるで俺が以前の俺ではないかのように、軽々と俺に話しかけてくる。
この顔が、彼らと俺の間にあった壁を、取り払ってくれたのだ。
昼休み、俺は教室を出て、誰もいない校舎の裏に回った。
人目を避けるように、ひっそりとパンを食べる。
ここは、俺にとって、唯一の安息の場所だった。
その時、背後から声をかけられた。
「日比谷…だよね?」
振り返ると、光が立っていた。
光は、俺の顔をじっと見つめている。
彼女の顔には、驚きと、そしてどこか居心地の悪そうな表情が浮かんでいた。
「…久しぶり」
俺がそう言うと、光は、さらに困惑したような顔になった。
「うん、久しぶり。なんか…別人みたいだね」
「そう、かな」
俺は、静かにそう答えた。
光は、以前のように俺を「ブサイク」と呼ぶことはない。
代わりに、彼女の顔から、笑顔が消えていた。
かつて、俺をいじめるために、見せつけてきた、あの楽しそうな笑顔が。
「…なんで、そんな顔になったの?」
光が、震える声で尋ねてきた。
その言葉に、俺は一瞬、怒りが込み上げてきた。
お前が、俺をいじめたからだ。
お前が、俺を無視したからだ。
そう言ってやりたい衝動に駆られた。
だが、俺は、その言葉を飲み込んだ。
「この顔は…僕が必死に働いて、手に入れたものです」
俺の言葉に、光は何も言えなくなった。
彼女の目は、俺の顔ではなく、俺の目を見つめている。
そこに、かつて見た、俺を蔑むような光はなかった。
あるのは、罪悪感と、後悔の色だけだった。
「ごめん…」
光が、小さくそう呟いた。
その言葉は、俺の心に、何の響きも与えなかった。
「何を?」
俺がそう尋ねると、光は、顔を真っ青にして、何も言わずに、その場を立ち去った。
俺は、一人、校舎の裏に残された。
この顔は、俺の人生を変えた。
だが、過去の語りは、顔を変えても、消えることはない。
俺は、新しい顔で、過去の語りと、向き合わなければならないのだ。
俺の人生は、今日、この瞬間から、本当の意味で始まったのだと、そう感じた。
文化祭の準備が始まった。
クラスは、まるで蜂の巣をつついたように賑やかだ。
以前の俺なら、こんな騒がしい場所から逃げ出していただろう。
だが、今の俺は、クラスの中心で話し合われている、文化祭の企画に参加していた。
「日比谷、照明の担当、手伝ってくれよ!」
「日比谷くん、劇の衣装、手伝ってくれない?」
みんなは、当たり前のように俺に話しかけてくる。
彼らは、もう俺を「いない者」として扱わない。
俺の顔が、彼らと俺の間にあった壁を、取り払ってくれたのだ。
俺は、今まで、顔がすべてだと思っていた。
この不細工な顔のせいで、俺の人生は地獄になった。
だから、この顔を捨てれば、すべてが変わると思っていた。
だが、実際に変わったのは、俺の顔だけじゃない。
俺の心も、少しずつ変わっている。
クラスメイトと会話を交わし、笑顔を見せ、そして、俺の意見を言う。
そんな、以前なら夢にも思わなかったようなことが、今、現実になっている。
昼休み、俺は、グラウンドで劇の練習をしているクラスメイトたちを眺めていた。
すると、幼なじみの光が、俺の隣にやってきた。
「…日比谷、すごいね」
光が、静かにそう言った。
俺は、驚いて彼女を見た。
「何が?」
「なんか、楽しそうじゃん。前は、いつも一人でいたのに」
光は、俺の顔ではなく、俺の目を見つめている。
そこに、かつて見た、俺を蔑むような光はなかった。
「…ありがとう」
俺は、それしか言えなかった。
光は、何か言いたげな顔をしていたが、何も言わずに去っていった。
彼女は、俺をいじめていた過去を、どう思っているんだろうか。
俺は、新しい顔で、過去の語りと、向き合わなければならない。
文化祭当日、俺は、この新しい顔で、何を「語る」のだろうか。
俺の人生は、この文化祭とは無縁だったはずだ。
だが、今は違う。
俺は、この文化祭で、俺自身が語るべき物語を、これから見つけなければならない。
そう、強く心に誓った。
文化祭当日。
クラスの出し物である喫茶店の客引きを、俺が担当することになった。
新しい顔のおかげで、クラスメイトは俺を「イケメン」として扱ってくれる。
以前の俺なら、こんな役目は絶対に回ってこなかった。
そして、もし回ってきたとしても、絶対に断っていた。
だが、今の俺は違う。
この顔で、俺は、俺自身が語るべき物語を、これから見つけなければならない。
俺は、精一杯の笑顔で、客引きをした。
「いらっしゃいませ!」
「当クラスの喫茶店、ぜひどうぞ!」
通りかかる生徒や先生たちが、俺の顔を見て驚き、そして笑顔で応えてくれる。
その時、俺は、初めて自分の顔が、誰かを笑顔にできることに気づいた。
それは、何百万かけても手に入らない、かけがえのないものだった。
その時、一人の女性が、俺の前に現れた。
顔に火傷の痕があり、周囲から距離を置かれている、美術部の御影澪だ。
彼女は、俺の顔をじっと見つめている。
「…顔を変えても、語りは変わらない」
彼女が、静かにそう言った。
その言葉に、俺は思わず固まった。
彼女は、俺の過去を知っているのか?
いや、違う。
彼女は、俺の顔ではなく、俺の「語り」を見ている。
彼女の言葉は、俺の心に深く刺さった。
この顔を捨てても、俺は、俺自身が語るべき物語を見つけなければならない。
彼女は、俺にとって、外見と語りの関係を問い直す、鏡のような存在だった。
その後、俺はカフェの常連客である柊真琴と出会った。
彼女は、俺の新しい顔を見て、微笑んだ。
「ねえ、なんでそんなに必死に働いてるの?」
その言葉に、俺は何も言えなかった。
彼女は、俺の顔を見て、俺の「語り」の深さが浅いことを感じ取っていた。
俺は、この顔で、何を語るべきなのか。
俺の人生は、まだ始まったばかりだ。
この顔で、俺は、俺自身が語るべき物語を、これから見つけなければならない。
そう、強く心に誓った。
文化祭の終わり、新しい語りの始まり
文化祭の熱気が、少しずつ冷めていく。
俺は、クラスの喫茶店の片付けを終え、誰もいなくなった校舎の廊下を歩いていた。
この顔で、クラスの中心にいた一日。
それは、以前の俺には想像もできなかったことだ。
だが、今日の出来事が、俺の心に、小さな波紋を立てた。
御影澪の言葉。
「顔を変えても、語りは変わらない」
彼女は、俺の顔ではなく、俺の心の奥にあるものを見抜いていた。
俺は、ただ顔を変えただけで、本当に変われたのだろうか。
俺が必死に働いて手に入れたこの顔は、ただの「入口」にすぎない。
俺自身が、新しい「語り」を見つけなければ、この顔は、ただの仮面に過ぎない。
その時、廊下の向こうから、一人の女性が歩いてきた。
四ノ宮雪先輩だ。
「翔くん、お疲れ様」
雪先輩は、俺の顔を見て、少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。
「今日は、楽しかった?」
「はい…」
俺は、それしか言えなかった。
「そっか。よかった」
雪先輩は、そう言って、俺の頭を優しく撫でた。
その手に、俺は、これまでの苦労が報われたような気がした。
俺は、雪先輩に、今日の出来事を話した。
御影さんの言葉、柊真琴の言葉。
雪先輩は、静かに俺の話を聞いてくれた。
そして、最後に、こう言った。
「顔を変えるのは、とても勇気のいることだと思う。でも、本当に変わるべきは、その勇気なんだと思うよ」
雪先輩の言葉に、俺はハッとした。
俺は、ただ顔を変えたかっただけじゃない。
この顔を捨てるために、必死に働き、耐え抜いた。
その努力と勇気こそが、俺を、本当の意味で変えたのだ。
俺は、この新しい顔で、新しい人生を歩き始める。
そして、その人生の中で、俺自身が語るべき物語を、これから見つけていく。
俺の人生は、まだ始まったばかりだ。
文化祭が終わってから、俺の生活は大きく変わった。
学校では、もう誰も俺を無視しない。
クラスメイトと普通に話すことができるし、休み時間には、一緒にスマホゲームをしたり、他愛のない話で笑い合ったりするようになった。
今まで、誰も見てくれなかった俺の顔を、みんなが見てくれる。
その事実は、俺の心を温かく満たしてくれた。
バイト先でも、変化があった。
カフェでは、常連客の柊真琴に、何度か話しかけられるようになった。
「ねえ、なんでそんなに必死に働いてるの?」
彼女は、俺の顔ではなく、俺の「語り」の深さが浅いことを感じ取っている。
俺は、まだ彼女に何も語れない。
でも、いつか、俺が必死に働いてきた理由、そしてこの顔を手に入れた理由を、彼女に話せる日が来るかもしれない。
そう思うと、少しだけ心が軽くなった。
コンビニの同僚、三笠麗は、相変わらず俺に干渉しない。
だが、時々、俺の顔を見て、何かを考えているような表情を浮かべている。
この間、俺が栄養ドリンクを飲んでいたら、何も言わずに、彼女も同じものを買って、俺の隣で飲んでいた。
言葉は交わさなくても、彼女は、俺の苦労を理解してくれているのかもしれない。
そして、祖母の玲。
電話で話すとき、俺の顔が変わったことを伝えても、彼女は「そうかい、かけるかい」としか言わない。
彼女にとって、俺は顔で判断される存在ではない。
俺の語り、俺の存在そのものを見てくれている。
そんな、新しい生活が、少しずつ日常になっていく。
俺は、この新しい顔で、俺自身の物語を語り始めていた。
顔を変えることは、たしかに俺の人生を変えるための、最初の一歩だった。
だが、本当に重要なのは、ここからだ。
この新しい顔で、俺が何を「語る」か。
その日の夜、スマホにメッセージが届いた。
「日比谷翔さん。三条です。一度、経過を見せに来てください」
三条先生からのメッセージだった。
俺は、先生の「顔は語りの入口にすぎない。語る力は、顔の奥にある」という言葉を思い出した。
そして、鏡の前に立つ。
そこに映っているのは、もう「ブサイクな日比谷翔」ではない。
だが、まだ、俺が語るべき物語は、始まったばかりだ。
整形男子の青春奪還! 匿名AI共創作家・春 @mf79910403
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