二章 風呂掃除

 女が夕方風呂を磨いている。

 始めたら長いので夕ご飯を用意してくれてからやればいいのにと思う。

 ときおりどこかをめがけて洗剤を振りかける。

 シミが。シミがこちらを見つめてくるんだよと言いながら。

 なんでも顔の形をしたシミが見えるらしい。

 自分には何も見えないけれど。

 ひたすら擦って、水をかけてまた擦って。

 いつまでも磨いているのでもう取れないんじゃない?と言った。

 そんなものは最初からついていないのだから。

 女はこちらの言葉を聞かず、洗剤を取ってと手を差し出してきた。

 その骸骨のような手の方がよっぽど怪談のようだった。

 震えながら洗剤を渡す。

 顔を上げずにまだ磨いている。

 シミがまた笑ったと苛立った声が聞こえて、熱心に磨く音が聞こえて。

 一段落ついたのかしばらくして音が消えた。

 やっと終わったようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る