一章 帰宅

 母が亡くなった日から男は毎日朝と夜に線香をあげている。

 夜、仕事から帰ってきた後は一日の疲れと合わせてか肩を震わせて長時間嘆いているほどだ。

 ずいぶん背中が小さくなったように思う。

 無理もない。

 まだ亡くなってから一月も経っていないのだから。

 謝罪の言葉か哀惜の言葉か。

 男は誰に言うともなく見えない相手に話しかけるようにひとりごとを呟いている。

 その言葉はよく聞こえない。

 誰にも届かない。

 ある日、いつもとは違うにおいがした。

 きっと気分を変えて母が好きだった花のアロマでも焚いているのだろう。

 しばらくするとぶつぶつと呟く声が聞こえなくなった。

 部屋で眠ったようだ。

 きっと疲れたんだろう。


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