第24話 最後の夜をください

夏の風が、少しだけ涼しくなっていた。

夜の商店街を歩きながら、胸の奥に重たさを抱えていた。


──あと数日で、東京に戻らなきゃいけない。

それは分かっていた。

大学の友達も、授業も、私を待っている。

けれど、翔太と過ごしたこの夏が終わるなんて、どうしても信じられなかった。


「彩花、元気ないな」

隣を歩く翔太が、不安そうに覗き込む。

私は足を止め、思い切って言葉にした。


「……ねえ。今夜、最後まで……翔太と一緒にいたいの」

声が震えていた。

でも、翔太はすぐには答えず、ただ黙って私を見つめていた。


「東京に戻ったら、会うのは難しくなるかもしれない。

だから……」

私は彼の袖を掴み、俯いた。


「もう一度……翔太の温もりを感じたい」

自分からこんなことを言うなんて、少し前の私なら考えられなかった。

でも、今は違う。


初めてを翔太に預けてしまった今、私は彼なしでは生きられない女になっていた。

長い沈黙のあと、翔太は小さく息を吐いた。


「……彩花、本当にそれでいいのか」

私は強く頷いた。


──たとえ、これが最後でもいい。

翔太の温もりを、もう一度だけ身体に刻みつけたい。

そう願う気持ちだけが、私を突き動かしていた。

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