第25話 白昼の密会
夏の陽射しが、障子越しに淡く部屋を照らしていた。
蝉の声が絶え間なく響き、どこか遠くから子どもたちの笑い声も聞こえてくる。
母は「美容室に行ってくる」と出かけて行った。
少なくとも二、三時間は戻らない──その短い隙を、私は待ち望んでいた。
「……今しかないよね」
そう囁くと、翔太は真剣な表情で頷いた。
畳に布団を敷き、互いに向かい合う。
昼間の光の中で、彼の輪郭がはっきりと見えて、胸が苦しくなるほど愛おしかった。
唇が重なる。
太陽の下で触れ合うのは初めてで、背徳と解放感がないまぜになった。
声を潜めなければならないはずなのに、思わず漏れる吐息を押さえられなかった。
「翔太……もう少し、強く」
自分から求める言葉に、顔が熱くなる。
けれど、今は恥じらいよりも、彼を欲しい気持ちの方が勝っていた。
蝉時雨の中、私たちは何度も確かめ合った。
母が帰ってくるかもしれない緊張感さえ、昂ぶりを煽った。
やがて、全てが静かになったとき、私は汗ばんだ彼の胸に顔を埋めた。
「……ありがとう。これで東京に戻れる」
涙が滲む。
最後の一度を過ごせた満足感と、もう会えなくなる不安とが入り混じっていた。
翔太は黙って髪を撫でてくれた。
その手の温もりが、夏の終わりを告げる陽射しよりも強く、私の胸に刻まれた。
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