第19話 答え合わせ

夜の図書館。

理科準備室から回収した時計を机に置くと、秒針がゆっくりと逆に動き出した。

未來と羽村が見守る中、僕は深呼吸をして秒針に指を添える。


「これを“正転”に戻す」


カチリ。

秒針が本来の方向へと回りはじめる。

その瞬間、机に広げていた二十四歳の僕の端末が点滅し、未送信のデータが次々と吐き出された。


羽村が目を見開く。

「……これ、全部“予約送信”だ。しかも……お前自身のアカウントから」


未來が震える声で言う。

「じゃあ……やっぱり君が?」


「違う」

僕は首を振った。

「これは“囮”だ。二十四歳の俺は晒し屋の主催者に潜り込むため、自分の端末を偽装に使った。

でも証拠は全部俺に集まるよう仕組まれていたんだ」


未來は唇を噛む。

「じゃあ本当の黒幕は……?」


画面の奥から、不意に録音が流れた。

『これを聞いているのは、過去の俺だろう。答え合わせの時が来た』


息が止まる。自分の声だ。

『俺は、真犯人を突き止めるために“死”を選んだ。

 だが計画は失敗した。だから次のルートの俺に託す。

 ――観測主を倒せ。犠牲を断ち切れ』


録音はそこで途切れた。



羽村が額の汗を拭う。

「観測主……やっぱり黒幕は別にいる」


未來が僕の手を強く握った。

「でも、まだ終わってない。代価が支払われない限り、この時戻りは……」


彼女の言葉を遮るように、校舎全体の放送が勝手に鳴り響いた。

ノイズ混じりの声。御影のものだ。


『――答え合わせの時間だ。犠牲を差し出さなければ、すべてが崩壊する。

 お前が死ぬか、彼女が死ぬか。選べ』


放送のスピーカーが軋み、夜の校舎に不気味な声が木霊する。

羽村が叫ぶ。

「罠だ! どっちかを犠牲にさせるのが狙いなんだ!」


僕は歯を食いしばる。

「いや……違う。“犠牲”を俺に押し付けようとしてる」


机の端に残されたメモが目に入った。二十四歳の僕の字だ。


――〈罪を転送せよ。囮の死を利用しろ〉


「……そうか」

胸の奥で閃いた。

二十四歳の僕は、“自分の死”を利用して黒幕を道連れにしようとしていた。

つまり、俺は“死んだことにすればいい”。


未來が不安げに見上げる。

「どういうこと……?」


僕は彼女の手を握り返す。

「犠牲を出さずにこの因果を壊す方法がある。――俺の“偽装死”だ」


未來の瞳が大きく見開かれる。

羽村が息を呑んだ。

「お前……本気か」


夜の窓の外で、赤信号がゆっくりと点滅していた。

それはまるで、“最後の選択”を急かすように。

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