第18話 もう一人の僕
夜の校舎屋上。
フェンス越しに月が浮かび、風がざわめきを運んでくる。
その影の中に御影――いや、もう一人の「僕」が立っていた。
「やっとここまで来たな」
御影は笑みを浮かべ、手帳を差し出してきた。
革の表紙は擦り切れ、何度も書き足された跡がある。
「……これは?」
「別の結果を記した記録だ。お前がまだ知らない“結末”がここにある」
ページをめくると、そこには新聞の切り抜きが貼られていた。
――〈女子高校生、赤信号交差点で死亡〉
写真には献花台と泣き崩れる人々。名前は佐倉未來。
「……嘘だろ」
声が震えた。
御影は冷たく頷く。
「その世界では、お前は助かった。だが代わりに彼女が死んだ」
頭が真っ白になる。
「俺が生き延びれば、未來が死ぬ……?」
「固定点は必ず“死”を要求する。お前か、彼女か。選択を間違えば、未来は必ず崩れる」
御影の声が重く響く。
彼の瞳は、どこか僕と同じ後悔を宿していた。
「……お前は誰なんだ」
「俺は別のルートで生き延びた“お前”だ。未來を失った結果、ここに戻ってきた。
言ったはずだろ、犠牲は避けられない。誰かが死ななければならない」
未來が一歩前に出た。
「そんなの、間違ってる! 私は死なないし、彼も死なせない!」
御影は眉をひそめ、笑みを消す。
「綺麗事だ。俺もそう思った。だが結末は変わらなかった」
僕は未來の肩を抱き寄せ、御影を睨みつけた。
「だったら俺は――その固定点を壊す」
御影は沈黙し、やがてふっと笑った。
「いいだろう。だが覚えておけ。壊すということは、“お前自身”を犠牲にすることだ」
その言葉とともに、手帳の最後のページが開かれた。
そこには血で滲んだような文字が刻まれていた。
――〈一人は死ななければならない。俺か、未來か、今の“君”か〉
夜風がページを揺らし、フェンスがきしむ。
未來の手が僕の腕に強くしがみついた。
「絶対に……二人とも生き延びよう」
彼女の声は震えていたが、瞳は強かった。
御影は背を向け、闇に消えていく。
「選択の時は近い。答えを間違えるな」
残されたのは、冷たい夜風と、不気味に赤く瞬く信号の光。
僕は拳を握りしめ、心に誓った。
――もう一人の僕に抗い、このルートを変えてみせる。
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