第17話 遠隔の手

グラウンドに駆け降りると、羽村は地面に倒れていた。

息はある。だが、腕には赤いタグがきつく巻きつけられている。

まるで誰かに「操られた」証のように。


「羽村!」

揺さぶると、彼の唇がかすかに動いた。

「……俺じゃ、ない……勝手に、身体が……」


震える声が途切れる。

その背後で、スピーカーからノイズ混じりの声が響いた。


『見ただろう? これが“遠隔の手”だ』


御影の声。

空気が凍りつく。


「信号も、車も、人間の動きさえも……観測主は操作できる。

 犠牲は必ず出る。お前が死ななければ、別の誰かが選ばれる」


未來が顔を蒼白にし、僕の腕を掴んだ。

「……そんなの、ただのゲームみたいに人を扱ってるだけじゃない!」


御影の笑い声が夜を震わせる。

『ああ、まさにそうだ。晒し屋は見世物を欲しがる。

 だが“観測主”はもっと残酷だ。世界を盤面にして、犠牲を配置している』


僕は拳を握りしめた。

「観測主……? そいつが黒幕なのか」


『お前が答えを出すまで続く。犠牲は拡大する。次は教師か、彼女か、親友か――』


声が途切れ、スピーカーは沈黙した。



羽村は保健室に運ばれ、意識を取り戻した。

「……気がついたら、体が勝手に動いて……屋上から飛び降りろって命令されてるみたいで」

彼の目は恐怖に染まっていた。


「操られてたんだ」

僕は息を呑んだ。

タグの小さな基盤が微かに点滅している。

外そうとすると、未來が制した。

「待って……これは証拠になる」


羽村は唇を噛みしめ、僕を見つめる。

「なぁ、本当に俺を信じてるか? お前、ずっと疑ってただろ」

「……信じてる」

言葉に力を込めた。

「操ってるのはお前じゃない。もっと別のやつが……“遠隔で”」


羽村の目にかすかな光が戻った。



その夜。

机の上の名刺を見つめながら考える。

――〈俺が、俺を殺す〉

その言葉の裏には、“遠隔で操られる俺”という意味が隠れているのではないか。


スマホが震える。

通知にはこう表示されていた。


――〈次は、彼女の番だ〉


背筋に冷たいものが走る。

窓の外で、赤信号が不気味に瞬いていた。

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