第13話 晒し屋の実像



古賀は救急車に運ばれていった。

青ざめた顔でハンドルに突っ伏していた姿が脳裏から離れない。

「頼まれただけだ……」

その言葉だけが耳にこびりついていた。



翌日。

羽村の提案で、僕たちは放課後にネットカフェへ向かった。

薄暗い個室に並んで座り、羽村がノートPCを立ち上げる。


「例のタグ、通信履歴を追ってみたんだ。そしたらさ――」

画面に映ったのは、不気味な動画サイト。

事故や喧嘩、盗撮まがいの映像が匿名でアップされ、コメントと同時に“投げ銭”が飛んでいる。


「……何だこれ」

未來が息を呑む。


羽村はマスクを整えながら続けた。

「“晒し屋”っていう連中のサイトだよ。事故や事件をわざと作って、それを配信して金に換える。海外の闇サイトと繋がってる」


僕は拳を握った。

「つまり、俺が死んだあの夜も……“ショー”にされてた?」


羽村は黙って頷く。

画面のサイドバーに「RED-CROSS」と題されたフォルダが並んでいた。

中身を開くと、交差点の映像がいくつも並んでいる。

その中に――僕が死んだ夜の動画。


ヘッドライト。悲鳴。倒れる僕の姿。

そしてカメラの向こうから、誰かが笑っていた。


「やめろ!」

未來が慌てて画面を閉じる。だが、その一瞬で十分だった。

心臓が鷲掴みにされたように痛む。


「賭けられてたんだよ」羽村が低い声で言う。

「どっちが死ぬか。“彼氏”か“彼女”か」


息が止まりそうになった。

そんなことが、理由なのか。

愛か疑念かで揺れていた心が、怒りに燃え上がる。



そのとき、PCに新しい通知が入った。

「LIVE START」の赤い文字。

晒し屋の次の“配信”が始まったのだ。


画面に映ったのは――僕たちの学校の屋上だった。

制服姿の生徒がフェンスに立たされ、風に煽られている。

顔ははっきり見えない。だが、声は鮮明だった。


『助けて……!』


未來が絶句する。

それは、担任・古賀の声だった。


「な……何で先生が……」


羽村が青ざめる。

画面のチャット欄には、冷酷な文字が踊っていた。

〈どっちが落ちる?〉

〈次は担任か、生徒か〉

〈赤信号で止まれるかな〉


未來は唇を噛みしめた。

「これ……次は私たちが狙われてる」


僕は歯を食いしばる。

晒し屋――運び屋の実像。

それはただの脅しや遊びじゃない。人の命を賭けて、笑いものにする最低の連中だった。


そして、その配信の発信元に表示されたIP。

それは――二十四歳の僕が使っていた旧端末に紐づいていた。


「どうして……俺の……?」


赤いLIVEの文字が、胸をえぐるように点滅していた。

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