第14話 矛盾点

晒し屋の配信画面に表示されたIP。

それが二十四歳の僕の旧端末に紐づいていると知った瞬間、頭の中が真っ白になった。


「どうして……俺の端末が?」


未來は動揺した顔で僕の肩を掴む。

「そんなはずない! だって君は……」

「でも、記録はそう示してる」

声が震える。


羽村は唇を噛んだ。

「つまり……黒幕は“未来のお前”ってことか?」


否定したい。けれど、画面に突きつけられた事実は冷酷だった。



その夜。

机の上に広げた二十四歳の僕の手帳を睨みつける。

――〈俺が、俺を殺す〉

その文字が、脳裏で何度も反響する。


だが、ページの隅に小さな走り書きを見つけた。

――〈予約送信。囮成立後に発火〉


「……予約送信?」

メッセージをあらかじめ設定し、指定した時刻に自動で発信させる仕組み。

もしそれが真実なら――僕が死んだ後でも、端末は勝手に動き続ける。


「じゃあ……黒幕は俺じゃない」

小さな希望が胸に灯る。

だが同時に疑問も生まれた。


――誰が、その予約を仕掛けた?


スマホが震え、非通知の着信。

耳に当てると、御影の声が低く響いた。


「見えてきたか? 犯人はお前。だが同時に、お前じゃない」

「どういう意味だ!」

「囮として“主催者を装った”のはお前自身だ。だから証拠は全部お前に紐づく」


御影は冷ややかに続ける。

「真犯人は影に隠れて安全なまま。“黒幕”という矛盾を、全部お前に押し付けてるんだ」


通話が途切れた。

心臓の鼓動が耳に響く。

僕は利用され、囮にされ、証拠を擦り付けられている――。



翌朝。

登校すると、校門前には人だかりができていた。

ざわめきの中で、生徒たちがスマホを掲げ合っている。


「見ろよ、これ……」


SNSのトレンドに載っていたのは、“交差点で死ぬ僕”の映像。

再生数はすでに数十万を超え、コメントには好奇の目と嘲笑が並んでいた。


胸の奥が冷たくなる。

僕の死はもう“娯楽”にされていたのだ。


隣で未來が震える声を上げた。

「これは……晒し屋だけじゃない。もっと大きな仕組みが動いてる」


その言葉を断ち切るように、背後から声がした。

「お前が死ななきゃ、彼女が死ぬ」


振り向けば、御影が校門の影に立っていた。

昼の光の下で、その笑みは不気味に冷たかった。


「選べ。愛か、真実か」

彼の声が心臓を抉る。


未來は不安そうに僕を見上げる。

その瞳を前にして、胸が軋む。


――愛するか、疑うか。

次の“夜”で、答えを出さなければならない。

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