第11話 告白と否定



翌朝。

教室の扉を開けた瞬間、胸が詰まった。

空席だった未來が、そこにいた。

少しやつれた顔で、それでも僕を見て微笑んだ。


「心配かけてごめんね」


声を聞いた瞬間、安堵と怒りと疑念がないまぜになって、喉が痛くなった。

――昨日まで失踪していたくせに。

――交差点に呼び出したのは誰だ。

――本当に彼女は僕を裏切っているのか。


放課後、僕は未來を屋上に呼び出した。

風が吹き抜け、夕暮れの光がフェンスを染める。


「どこに行ってたんだ」

僕の声は鋭くなった。

未來は少し肩を震わせ、唇を噛んだ。


「……言えなかった。怖くて」

「何が」

「全部」


未來はポケットから小さな布袋を取り出した。

地元神社のお守り。表に「時戻り守」と金糸で縫われている。


「これ、知ってる?」

「……伝承は聞いたことがある。“願いをかけると時を巻き戻す。でも代価はひとつの死”」


未來はこくりと頷いた。

「私……願ったの。『彼を救いたい』って。そしたら、気づいたら君は“戻って”きてた」


胸がざわつく。

「じゃあ……俺を殺したのは君なのか?」

問い詰めると、未來は首を振った。


「違う! 私は救いたかっただけ。だから、交差点で録音したの。……君が死ぬ理由を突き止めるために」


頬を涙が伝う。

必死に否定するその姿は、演技には見えなかった。

けれど、疑念は消えない。


「じゃあ、なぜ俺は死んだ? なぜ“俺が俺を殺す”なんて記録が残ってる?」

声が震えた。


未來は目を見開き、絶望の色を浮かべた。

「……知らない。私じゃない。でも、ひとつだけ覚えてる」

彼女は震える声で言った。

「赤信号の夜、私はフェンスの向こうで君の名前を叫んでた。届かなかった声を……今度こそ届かせたい」


その瞬間、僕の心は大きく揺れた。

愛したい。信じたい。

けれど、真実はまだ霧の中だ。


沈黙を破ったのは、背後で響いた声だった。

「届かないよ」


振り返ると、御影がフェンスに寄りかかっていた。

薄暗い光の中で、不気味な笑みを浮かべる。


「代価はまだ支払われていない。誰かが死ぬまで、この物語は終わらない」


未來が凍りついた顔で僕にしがみつく。

「嘘よ……そんなの」


僕は唇を噛んだ。

――未來は本当に僕を救おうとしているのか。

それとも、知らないうちに“死の因果”を呼び寄せてしまったのか。


夕陽が沈み、屋上が赤に染まる。

僕は心の奥で誓った。

必ず真相を暴く。そして、彼女を――愛するのか、疑うのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る