第7話 赤信号の模倣



夏祭りの夜の出来事は、翌日の学校をざわつかせた。

「信号機、勝手に切り替わったんだってさ」

「誰かが操作したって噂だよ」

廊下を歩く生徒たちの声が耳に刺さる。


僕は教室の窓際で、未來の横顔を盗み見る。

彼女は笑って友人と話しているけれど、その笑みはどこか張りついたように見えた。

あの夜、信号の誤作動を真っ先に否定した彼女の声が、まだ耳に残っている。



放課後。

理科棟の廊下を歩いていると、突然、赤いランプが点滅した。

非常灯の誤作動。だが、点滅のリズムが妙だった。

「……これ、信号のパターン?」

赤→赤→青→赤。交差点で見たあの切り替わり方と同じだ。


嫌な予感がして理科準備室に入る。

中は薄暗く、誰もいない。

だが机の上に置かれた時計が、また逆に回っていた。

秒針がカチリ、カチリと逆流していく。


その瞬間、背後の扉が開く音。

振り返ると、羽村が立っていた。


「……お前も気づいたか」

彼は苦笑しながら机に近づき、ポケットから工具を取り出した。ドライバーや小さな基盤。

「羽村、それ……」


「俺じゃない。俺はただ、頼まれただけだ」

その目は真剣だった。

「誰に?」と問う声が震える。

羽村は口を開きかけ――だがその瞬間、廊下の窓がガシャンと割れた。


飛び込んできた小石。そこには赤いマジックで一言。

――〈黙れ〉


二人は顔を見合わせる。

誰かが監視している。



夜、自室。

机に広げた羽村の工具を見つめる。

彼が言いかけた「依頼主」は誰だ?

古賀か、未來か、それとも……神崎か。


スマホが震えた。非通知。

通話ボタンを押すと、低い声が告げる。


「赤信号は模倣だ。本物はまだこれからだ」

「お前は誰だ!」

「次は、もっと大きな“犠牲”が出る。……親友を守りたいなら、選べ」


通話はぷつりと切れた。

手のひらに汗が滲む。

親友――羽村。

だが彼はすでに何かに巻き込まれている。


「俺は……誰を信じればいい?」

声に出した途端、胸が締めつけられた。


窓の外で、赤い点滅がまた瞬いていた。

まるで僕を嘲笑うかのように。

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