第4話 鍵アカの未来



翌日の昼休み。

教室の隅、スマホを握りしめる羽村の顔は青ざめていた。

「なぁ……これ、見てくれ」


差し出された画面には、SNSの非公開アカウント。

鍵がかかったそのアイコンは、どこか見覚えがある。夕暮れのフェンス越しに撮られたシルエット写真。

ユーザー名は「@scarlet_cross」。

そこに並ぶ投稿のひとつが僕の目を射抜いた。


――〈赤信号の夜、君は止まれない〉


心臓がひとつ跳ねる。

まるで“僕の死”を知っているかのような文言。

そして投稿の日付は二週間前。僕が過去に戻る直前のタイミングだった。


「これ……未來のアカウントじゃないのか?」

羽村の声は震えていた。

「プロフィールにある“17”って数字。あいつの誕生日だろ?」


僕は唇を噛む。

もし本当に未來の鍵アカなら、彼女はすでに“未来の出来事”を知っている?

だが、授業中の未來は何も知らない顔でノートを取っている。


放課後、僕は彼女を呼び出した。

夕暮れの屋上。風が吹き抜け、フェンスがきしむ。

未來は怪訝そうに首を傾げた。

「“鍵アカ”? 私、そんなの持ってないよ」


「じゃあ、この投稿は誰が……」

僕はスマホを突き出す。

未來は画面を覗き込み、目を見開いた。

「……これ、私の写真だ」


アイコンのシルエットは、間違いなく未來。去年の文化祭で撮られた一枚。

未來は眉を寄せた。

「でも、このアカウントは私のじゃない。本当に信じて」


その声は震えていた。

僕は目を逸らせない。信じたい。けれど……疑念は消えない。


「未來。もし本当に知らないなら……誰が成りすましてるんだ?」

「……わからない。でも、こんなことできる人は……」

未來は口をつぐむ。

風に長い髪が舞い、沈黙だけが残る。


沈黙を破ったのは、ポケットの振動だった。

非通知。耳に当てると、低い囁きが響く。

「成りすましの正体は、二十四歳のお前がいた場所の近くだ」


「どういう意味だ!」思わず声を荒げる。

電話の向こうは静かに笑う。

「探せ。そうすれば見えてくる。彼女は加害者でもあり、被害者でもある」


通話はぷつりと切れた。

僕は握りしめたスマホに汗を滲ませながら、未來を見つめる。

彼女は怯えた瞳で、ただ小さく首を振る。


――未來が黒幕なのか。

それとも、彼女を利用する“誰か”がいるのか。


夜、自室で鍵アカを再び確認した。

投稿には位置情報が残っていた。

それは、24歳の僕が勤めていたオフィス街。


背筋が冷える。

「なぜ……ここで過去と繋がる?」


窓の外、街灯の下に影が立っていた。

見覚えのある背格好。

……神崎。


次の瞬間、彼は口元に笑みを浮かべ、闇へ溶けた。


僕は確信する。

未來の名を騙る“成りすまし”。その糸口は、間違いなく僕の“未来”に結びついている。

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