第16話:マザコン
「ふっふっふ………甘いよ、非常に甘いよ我が友よ!」
「俺は突然お前がハイテンションになってるのが怖いぞ我が友よ」
「忘れたのかい友よ、我が地域には欠席ではなく出席停止扱いになる『ラーケーション』という素晴らしい制度があるじゃないか」
「そういえばあったなそんなの」
『ラーケーション』とは言ってしまえば有給のようなものだ。
それを使えば欠席扱いにはならないので青嵐の懸念は消え去った。
だがまたひとつ青嵐に懸念が浮かび上がった。
「それって1週間前には申請してないと適応されないんじゃなかったか?なら早くても1週間後に出発だろ?」
「そこは私の手にかかればちょちょいのちょいだよ」
がっつり不正していた。
「満面の笑みで堂々と不正を宣言するんじゃない」
青嵐は当たり前のことを言った。
だがバレなければ犯罪ではないように、バレなければとやかく言われる事はない。
おそらくバレるのだが。
「私って理事長に顔がきくから安心してよ」
まさかの理事長に根回し済みだった。
そりゃあ学園1番の権力者を味方に付けたら不正なんてし放題だ。
「それで行かないの?」
「理事長はこっち側なんだよな?」
「そうだよ、言っちゃえば青嵐の言いなりにできる」
それは些か誇張し過ぎではないだろうかと青嵐は思った。
はあ、と今日1番のため息を吐き出した青嵐。
問いに対する答えなど言わずとも椿にはわかっていた。
1+1が2なように、0に何をかけても0なように、返事は自然と決められていた。
「行くよ、その教授のところ」
青嵐の中にはその答えしか存在しなかった。
「じゃあ準備して、あと論文に目を通しといてね」
「了解」
ピロンと青嵐のスマホが通知音を鳴らす、椿から論文のデータが送られてきたようだ。
『雨と魔女の存在についての可能性』のタイトルの下に教授の名前が書いてあるのに気づいた。
「綾小路教授、か………」
綾小路沙夜、おそらく女性なのだろうその名前は青嵐にとってどこか見覚えがある気がした。
「女好きの青嵐君は嬉しいかな」
「母さん以外の女に興味はない」
「一途だね〜、私にも興味ないの?」
「お前は友人枠だろ、異性としては興味ない」
青嵐は椿の事を女性だったり恋愛対象としては見ていない、それもこれも青嵐にとって椿とは初めての友人であって彼女ではないからだ。
「膝枕してもらうとしたら?」
「母さん」
「付き合うとしたら?」
「母さん」
「同棲するなら?」
「母さん」
「結婚するなら?」
「母さん」
「マザコンなんですか」
「違ったら俺は母さんを探してないだろうな」
何を今更、青嵐は紛れもなく透き通るように純粋なマザコンである。
母親ではあるものの、ずっと追いかけ続けてきた女性がいるのに、女にうつつを抜かすことなど、青嵐にとってあり得ない事だった。
「もう見つけたら結婚しちゃえば?血繋がってないんでしょ?」
「………アリだな」
「いやアリなの!?」
椿は冗談のつもりで言った。
だが青嵐は一瞬考えた後その意見を肯定してしまった。
しかし青嵐には母親に対する明確な恋愛感情はない、というよりどんな女性なのかすらまともに覚えていないのに恋愛感情なんて持てない。
「母さんには2度と逃げられるわけには行かないからな、結婚したらもう逃げられなくなるだろ」
恋愛感情の理解できない青嵐にとっては婚姻関係も母親と過ごすための手段に過ぎなかった。
「まあ、半分冗談だけどな」
ここまで青嵐は婚姻関係を利用することを述べたが、実際は半分冗談だ。
こう見えても青嵐だって恋愛結婚したいとこっそりと思っているのだ。
「はあ…やっぱ青嵐って平均75点だけど90点は取れないタイプだよね」
「なんだそれ」
「だいたいなんでもできるけど大事なところで残念ってこと」
恋バナを期待した女子高生にとって青嵐は面白くない存在だったようだ。
椿の指摘はまさに青嵐の定期テスト内容そのままだった。
頬を指で突いてくるかまってちゃんを適当にあしらいつつ、青嵐はさっと論文に目を通した。
いわく現存する資料によれば雨は2000年前の近辺から降り始めたこと、そしてもうひとつだけ、雨との関係性は不明だが魔女と呼ばれた女性が存在した可能性があることがヨーロッパの資料によって判明したこと。
まさに青嵐が追い求めていた情報の一欠片だった。
「これは是非話を聞かないとな」
「だから準備してよね、明日聞きに行くんだから」
スマホの画面を暗転させ、青嵐は早速準備に取り掛かった。
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