第3話「砕かれた鎖」

「あなた、何者なの? あなたも魔法少女?」


 プリベントと対峙したビリーヴは、彼女の様子を伺うように、一点を見つめていた。同時に、いつでも攻撃ができるよう、杖を握る手に力を込めている。


「あなたに名乗る名はありません。ただ……私の命令に従わなければ、身の安全は保証しかねます」


「警告します。今すぐに、ホープクリスタルの使用をやめなさい!」


 プリベントとは凛とした声でビリーヴに向かって変身を解くように求めた。近くでは、日比谷が物陰からふたりの様子を伺っている。


「……なんで? 私は市民を助けただけよ?」


「その行動が、いずれ誰かを傷つけることになるからです」


「ハッキリ言います。あなたは、本当の正義ではない!」


 プリベントは真剣な目つきでビリーヴを一喝した。その言葉を聞いたビリーヴが眉をひそめる。


 「正義じゃない……? 誰かを傷つける……? あなた何言ってるの!? 冗談じゃない!」


 自分の信念を根本から否定する発言に、ビリーヴは激しい怒りを覚えた。


 「わかったわ……あなた魔女ね! 私の陥れようとしてるんだ!」


 「っ……!? 違う! 私は……!」


 「言い訳はいらないわ! 悪の根は摘まなくちゃ!」


 ビリーヴは聞く耳を持たず、プリベントに向かって弾幕を放った。プリベントは間一髪回避し、こちらも戦闘態勢に入る。


 「おい……マジかよ!?」


 見守っていた日比谷が思わず声を漏らした。


 「こちら第一班! 対象とプリベントが交戦! 至急応援を要請する!」


 日比谷は物陰から飛び出すと、装備品である黒い片手剣を引き抜き2人の元へ向かった。


 「鎮圧開始!」


 プリベントは何も無い空間に手を伸ばすと、魔法陣から杖を取り出す。木と結晶でできた飾り気ないシンプルなものだった。


 そのままビリーヴに向けて杖を向けると、攻撃魔法により弾幕が形成される。鮮やかな魔弾は、微かに誘導性を持ってビリーヴに襲いかかるも、防御魔法で防がれてしまった。


 「やっぱり硬い……! 手慣れな子だ……」


 ビリーヴに距離を取られると、今度は杖を変形させて銃のような形にし、狙い澄まして射撃する。先ほどとは違い、レーザーのような軌跡を描いて超高速で着弾する。


 「っ……!?」


 今度は防ぎきれず、空中でビリーヴの体勢が崩れる。すると、どこからともなく日比谷が飛び出してビリーヴに切りかかった。


「はぁぁぁぁっ!」


「きゃっ!?」


 間一髪でビリーヴは体勢を立て直し、日比谷の斬撃を回避した。


「日比……いや、パニッシャー執行者さん!」


「待たせたなプリベント。さぁ、さっさとコイツを鳥籠にぶちこむぞ」


「なんなの……あなたも敵なの!? 悪の組織……ってやつかしら」


 ビリーヴは敵の増援に微かな焦りを感じたが、再び集中して2人を警戒し始めた。


「あ? 悪の組織? ふざけんなよ、誰のせいでこんなことになってるんだよ」


「お前らが好き勝手カラミティを鎮圧するせいで、知らず知らずのうちに市民を危険に晒してる」


 「そんなこと、容認できるかよ……!」


 日比谷も厳しい視線をビリーヴへ向ける。市民を助ける魔法少女に、なぜこのようなことを言うのか、ビリーヴは理解できなかった。


 「さっきからいい加減なことばっかり言って……許さないわ!」


 ビリーヴが杖に魔力を込めると、魔法陣が空中に浮かぶ。パニッシャーとプリベントは二手に分かれながらビリーヴを攻略し始めた。


 「回避したら一気に叩き込むぞ! いいな!」


 「了解です!」


 杖の魔力が最大まで溜まると、ビリーヴは一気に力を解放した。


 「イノセント・ミーティア潔白の流星!」


 眩しいほどの純白に輝くエネルギー弾が、流星の如く2人に襲いかかる。だが2人は弾の間をかいくぐるように回避し、反撃の準備を始めた。


 「パニッシャーさん! いきますよ!」


 「よし……! やれ!」


 「――バインド束縛のアンカー!」


 プリベントが銃型の杖から魔弾をビリーヴの足元へ打ち込むと、着弾地点から鎖が飛び出し、彼女を縛り上げる。そして、パニッシャーの追撃が迫る。


 「メランコリー哀愁のラメント嘆き……!」


 パニッシャーが剣を鋭く振ると、斬撃が飛びビリーヴへと向かう。彼女は必死に拘束から抜け出そうとするも、頑丈な鎖はびくともしなかった。


 「っ……そんな……!」


 斬撃が直撃し、ビリーヴは遠くへ吹き飛ばされる。地に伏したビリーヴは、ボロボロの体に鞭を打って立ち上がるも、どう見ても戦闘を続けられる状態ではなかった。


 「くっ……うぅ……」


 「今だプリベント! 拘束しろ!」


 勝負は決したと思われた。しかし――


 「おい! ビリーヴが誰かに襲われてるぞ!」


 「負けるなビリーヴ!」


 「なんだあいつら! 新手のカラミティか!」


 なんと避難していた市民たちが現場へやった来たのだ。魔法少女を追い詰める怪しい人物に、人々の冷たい目線が刺さる。


 「マズイ……警報解除で集まってきやがった!」


 「パニッシャーさん! どうすれば……!」


 「ここは引くぞ! 民間人の目の前で拘束はできない!」


 2人は足早にその場から逃走した。ビリーヴは市民たちに支えられ、息を整えた。


 「ビリーヴありがとう! 怪物から街を救ってくれて!」


 「君が本当のヒーローだよ!」


 「まったく、あの2人組は何者だ? まさか魔女の手下なんじゃ……」


 市民たちはビリーヴに感謝を述べつつ、フェイトリアリーの隊員を怪しんでいた。


 「みんな、救ってくれてありがとう! 私も頑張るからね!」


 九死に一生を得たビリーヴは、市民に手を振ってどこかへ飛び立った。


 魔法少女とフェイトリアリー。はたして、本当の正義はどちらなのだろうか――

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