第4話「潜在脅威」
「こちら第1班、市民の妨害により対象の拘束に失敗した……」
現場から離れた実来と日比谷は、 車両の中から本部へ連絡をしていた。
「すまない。カラミティを鎮圧した直後に、警報を解除してしまったこちらの責任だ。そちらに落ち度はない」
「それよりも……市民によってSNSに我々フェイトリアリーの隊員の写真が上げられる事案が多発している。 君たちも撮られてるぞ」
「それはこちらも確認してる。 やはり犯罪組織だの魔女の手下だの言われてるな。 撮られたのが顔じゃなくて、背中だったのが幸いだった」
日比谷はスマホを片手に情報を確認しながら苦い顔をしていた。
SNS上には、
「#魔法少女襲撃事件」
「#黒服の正体」
「#魔女の手下?」
などのように、魔法少女を襲い、誘拐する謎の組織として晒されている。
「政府の方でホープクリスタルの危険性と、 フェイトリアリーの存在と活動理由を、 明かすべきじゃないんですか……?」
「東雲隊員。残念だが、それは現状だとかなり厳しい提案だ」
実来の提案を、本部はこのように説明して却下した。
「政府ではカラミティの存在を『異世界から来た魔法を使う存在』として堂々と言いたくないらしい。国民のさらなる混乱を避けるためと言われているが……真相は不明だ」
「それに、ホープクリスタルの暴走があれど、それを理由に魔法少女たちを正式な手続きを踏んで強制的に拘束・監禁できる法律がないのも理由だ」
「もしドカドカと魔法少女たちの家に上がって、家族に『この子は潜在的な脅威を持つ魔法少女として活動してたから、拘束します』なんて言って無理矢理連れったら権利侵害に当たるからな……だから現場を押さえて拘束してるんだろ? 俺達は」
本部の話に日比谷がそう付け加えた。実来はあまり納得できていなさそうだったが、黙って理由を聞き入れた。
「とにかく、我々ができることは『裂け目から出現するカラミティの鎮圧とそれに寄ってくる魔法少女たちの拘束』そして、『裂け目とホープクリスタルの発生原因の調査』現状、これしかないということだ」
「かなりツライ日々になるだろうが、東雲隊員。なんとか慣れてくれ」
「話は以上か?」
「ああ、以上。あ、それと東雲隊員。君に会ってもらいたい人がいるから、帰還したらミーティングルームに日比谷と来るように」
「会ってもらいたい人……ですか?」
「……アイツか?」
「そうだ。まあ詳しいことは後で話す」
「以上だ、オーバー」
切れた無線から意識を戻して、日比谷は車のアクセルを踏み、フェイトリアリー本部へと向かった。
実来は度々ポケットのサルベージュクリスタルを出して見つめては、視線を景色に映して物思いに吹けていた。
「東雲、大丈夫か?」
「え? あっ、はい。大丈夫です……」
疲れた顔の東雲を心配したのか、日比谷は声を掛けた。不真面目そうに見えて、仲間のことはしっかり気にかける人だからか、周りからの信頼は厚い。実際、不真面目なのだが。
「あの……日比谷さん。私に会わせたい人って……誰なんですか?」
「ん? ああ、フェイトリアリーの……なんだろうな、協力者……? って感じのやつだ。他の班や課のやつらとも顔合せしてるけど、お前はまだだったからな。まぁ会えばわかる」
「そうなんですね……」
「……なぁ東雲」
「はい、なんですか?」
「……お前、あの魔法少女を拘束できなくて悔しいって思ってるか?」
「それは……」
冴えない顔で、黙り込んでしまった。
「1回の戦闘で拘束できないことなんて、いくらでもある。チャンスはまた来るさ」
「……『
「17歳……」
実来は日比谷が言った情報を聞いて、脳裏に隠していた過去を思い出してしまった。17歳の高校二年生……その言葉が、彼女のトラウマを呼び起こす。
「東雲、おい東雲……?」
「……はっ!? あっ……ぁ……すみません……」
「お前どうした……? さっきから様子が変だぞ」
震えていた実来は、日比谷の声で意識がハッキリとさせた。手が軽く震え、過呼吸気味になっていた呼吸も、少しばかり落ち着いた。
「東雲。お前過去になんかあったのか? 魔法少女に関して」
「……」
「言いたくなけりゃ黙ってていい。俺だって知りたくない過去も、知られたくない過去も、両方あるし」
「……私が、ここに所属するきっかけになった出来事です。今から……3年前の……」
「……話すのかよ」
実来は日比谷の言葉を無視して、微かな声で話始めた。アスファルトを踏みしめながら駆けてゆく車の内が、恐ろしいほど無音に感じられた。
「あれがあったから、私は……」
「――魔法少女たちを、止めようと決めたんです」
――微かに曇る空に、実来は自分の過去を重ねた。
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